上を向いて歩こう。

上を向いて歩こう。

  2016/02/04  
     
 

戦後最大の疑獄事件といわれたロッキード事件で国会に召喚された小佐野賢治が、証人喚問で繰り返した「記憶にございません」は当時の流行語となった。

 

しかし、政治家の間では、その後も流行は衰えることはなく、現在までの間に様々な場面で「記憶にない」と発言した政治家は数えきれない。

 

中でもこの度、野々村元県議の「記憶を確認します、しばらく待ちください」と考え込み、少し間をおいて「思い出せません」は、傑作のひとつだろう。

 

相手の顔や服装など、集中力に裏付けられる「記憶」に関しては、思い出そうとしても思い出せないこともあるが、自分の行動に裏付けられる「記憶」は、その時の周囲の状況やプロセスなどがある程度頭に浮かべば、うろ覚えながらも覚えているものである。

 

だから、あれだけ「記憶にない」を繰り返すのは、よほど肝が据わっていないとなかなかできるものではない。

ただ、「記憶にない」「思い出せない」と発言する時は大概の人が伏し目がちである。

上を向けない事情があるのだろう。

 

 

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私は以前、勤務していた会社と取引先との間に発生したトラブルの件で、民事事件の裁判に証人で呼ばれたことがある。

ポイントは私が当時、取引先にどう発言していたか―。

 

何年も前のことでありしかも、たくさんの取引先と日々、様々な折衝を重ねていた中でのことであり、これはなかなか思い出せるものではない。

相手方の弁護士から「あなたは言いましたね」と詰められると、なんだか自分ならそう言いかねんなとも思ってしまう。

 

しかし、事実として明確な記憶がない以上いい加減な証言は差し控えなければならないので、結局「記憶にない」「思い出せない」を繰り返すことになったが、これは案外、バツが悪いものである。

 

野々村元県議は記憶障害らしいが、本当だろうか。

私からすると明らかに、自分にとって都合が悪いことを記憶から消し去ろうとしているとしか見えない。何度も何度も行った旅行(視察?)の記憶は、少なくとも「思い出」程度には残っているはずである。

潔い決断をして欲しい。

 

 

先月、会社に贈り物が届いた。

受け取った事務員さん(家人です)が包みを解き、

 

「きれいなプリザーブドフラワーよ」

 

「有り難いね。どなたからだ」

 

「えーっと、あら、このMちゃんって誰かしら」

 

「……」(うっ、新地の店からだ…)

 

「あなたMちゃんよ。ご存知ないの?Mちゃん」

 

「あ、今、記憶を確認しますので、しばらくお待ちください」

 

「……」

 

「お、思い出せません…」

 

 

上を向いて歩こう

涙がこぼれないように―

 

 
  林 正寛  
     
     

株式会社アスキット・プラス

 

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