ささやき。

ささやき。

  2016/07/07  
     
 

人は、心の中に何人かの自分を抱え込んでいて、その自分がいろんな場面場面で登場して、好き勝手にささやき、そして感情を伝えてくる。

 

私なんかは、登場する自分が人より多いように思えて仕方がないが、毎日、朝から晩まで、次から次に心の中にいろんな自分が現れ、ささやいてくる。

 

「早くやってしまってはどうか」

「まだ間に合うし明日やればいいだろう」

 

「まあ、バレなければいいかな」

「いやいやそれはマズいだろう」

 

「さあ、もう1軒いこうか」

「いい加減、帰った方がいいんじゃないか」

 

実に喧しいが、それでもどうにかこうにか自分に折り合いをつけながら日々過ごしている。

 

そして、折り合いをつけた結果に対し、またいろんな自分が登場する。

 

「だから言わんこっちゃない」、「やって良かったかもしれない」、「まぁ仕方なかったか」などと―。

 

人は、この「自問自答」を心の中で繰り返しながら、自分で導いた答えを繋ぎ合わせながら、少しずつ人生を前に進める。

 

そこには、喜びもあり、苦しみもあり、後悔もある。時にはそんな答えを出した自分を責め、絶望することもあるが、そこでもまた「自問自答」を繰り返し、「しゃあない、やるしかないか」と心の中でささやき、そして立ち上がり、自分で自分の背中を押し、次の一歩を踏み出す。

 

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日立製作所は、社員の幸福感向上に有効なアドバイスを人工知能(AI)が個別にスマートフォンに配信する実験を始めた。

 

どの行動で幸福感が上がるかをAIが分析・推定し、「○○さんと話をしましょう」といった行動を自動で割り出し社員に知らせる。

 

またAIは、「午前中はデスクワークをしましょう」などと、職場での行動改善につながるアドバイスもするらしい。

 

要するに、コンピューターが自問自答し、出た答えを人に伝え、人はそのアドバイスにしたがって行動する。

行動の結果が満足の得られるものでなかったとしても、自分が出した答えではないから自分を責めることもない。

 

言語の理解や推論、問題解決などの知的行動をコンピューターが人に代わって行い、人はその指示にしたがえばいい。

 

こんなことで幸福感が向上するのか、業務の効率化につながるのかわからないが、少なくともこれが常態化すれば、判断はすべてコンピューターに任せてしまい、仕舞いに人は考えることを放棄してしまうのではないか。

 

そして、いつか、コンピューターが人間のようになり、人間がコンピューターのようになってしまうのではないか。

 

そうなれば人は二度と立ち上れなくなるだろう。

 

 

耳元でAIがささやく。

 

「しゃあない、やるしかないか」

 

 
  林 正寛  
     
     

株式会社アスキット・プラス

 

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