夜空ノムコウ。

夜空ノムコウ。

  2016/09/14  
     
 

先日、美味い焼鳥屋があるので行きましょうと知人に誘われるまま行った先が、私が30年前に新入社員として配属されたN社の大阪支店があった場所のすぐ近くだった。

 

当時大阪支店は、淀屋橋駅から徒歩5分ほどの御堂筋沿いの一等地にあったが、そのビルはすでに解体され、新たにオフィスビルが建っているので、今は無い。

 

連れて行ってもらった焼鳥屋があった場所は、以前は鮨屋だった。

 

30年も経てば当然なんだが、街には当時の面影はほとんど残っていなかった。

ただ、あのころよく通ったスナックが入っていたビルは当時のまま残っていた。

 

その店は今はもうないが、この店のママさんにはよく世話になった。

 

私は社会人になっても尾崎豊気分が抜けない青二才だったので、社会の理不尽を吸収できず、しょっちゅうこの店で会社の上司や先輩たちと議論しては衝突し、時には取っ組み合いの喧嘩にもなったが、そのたびにママさんは、「ハヤシさん、あんたが悪い、早よあやまり!」と叫びながら私を羽交い絞めにし、店にさらなる被害が広がるのを必死に防いでいた。

 

それでもたまにひとりで立ち寄ると、「ハヤシさん、君は悪ない、悪ないよ」と励ましてくれたり、「君は若すぎる。早く大人になりやぁ」と諭されたりもした。

 

私は、このママさんが歌う加藤登紀子の「百万本のバラ」が好きで、いつもリクエストしては聴きながらカウンターでうたた寝し、「コラ、ハヤシ、聴かんかい!」と毎回突っ込まれた。

 

あの時ママさんは一体何歳だったのだろうか。30代半ばから後半、もしかすると40代だったかもしれない。

 

― すると今は…。数えるのはよそう。

 

 

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平成8年に会社が破綻し、スナックに行く機会を失い、その後何年かして訪ねたが、その時はすでに店は閉じられていた。

 

お礼を言いたかったが、できなかった。

 

 

 

焼鳥屋の後、近所のカラオケラウンジに寄った。

 

こちらが歌わなくても、店の若いオネエチャンたちが、とても仕事とは思えないサイコーの笑顔で、嵐やSMAP、西野カナなんぞを上手に歌ってくれる。

 

途中、茶髪のバーテンダーの男の子が入ってきて、嵐の二宮和也の「虹」をこれまたカッコよく歌う。

聞けば、この茶髪の若者は、関西の超優秀な国立大学の4年生で、来春からは証券会社での勤務が決まっているらしい。

 

 

思い出の地で、自分の古ぼけた記憶と風が立つような若者たちの歌声が交差した。

 

店を出たあと、夜空を見上げて思わず唸った。

 

私は50年以上何をしていたのだろうか。

 

 

 

あの頃の未来に ぼくらは立っているのかなぁ

全てが思うほど うまくはいかないみたいだ

 

あれからぼくたちは なにかを信じてこれたかなぁ            

夜空の向こうには もう明日が待っている

 

 
  林 正寛  
     
     

株式会社アスキット・プラス

 

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