ノンフィクション。

ノンフィクション。

  2019/5/20  
     
 

 

異例のゴールデンウィークが終わり、いつもの仕事に戻り、5月も後半。あれだけ沸いた改元の熱気はどこへいってしまったのだろうか。

 

一気に盛り上がったと思えば、すぐに冷めて、もう話題にも上らない。

 

今の時代の風潮だろう。

 

 

 

平成の忘れてはならないできごとを記録として残してくれたノンフィクション『「トッカイ」不良債権特別回収部 バブルの怪人を追いつめた男たち』(清武英利著・講談社)

 

令和になる前の4月に発売したのには、清武英利氏のこだわりかもしれない。

 

私が主な登場人物として実名で登場する「トッカイ」の発売を楽しみにしていた父は、3月に亡くなった。

 

 

 

先日、満中陰法要が終わり、葬儀の後から私の枕元にあった父の遺骨がようやくなくなった。

 

私は父とは40年離れて暮らしていたので、遺骨とはいえ、久しぶりの同居はなんだかジッと見られているようで気が気ではなく、実際に夜中に目が覚めると、遺影の父と目がバッタリ会うのもしょっちゅうで、寝苦しい夜が続いていた。

 

父は父で、縁もゆかりもない大阪の狭い一室に押し込まれ、さぞ居心地が悪かったであろう。今ごろは(どこにいるかは知らないが)、一杯やりながら、大好きだった八代亜紀でも聴いているのかも知れない。

 

 

 

先日、ある外国人アーティストのコンサートに、中学生のときの同級生と行ってきた。

 

昭和の時代から聴き始め、令和が始まったこの時期に来日したこのアーティストは、74歳になっていたが、ギターと歌のうまさに渋みが加わり、心に響いた。

 

横を向けば、あの頃の友がいて、あの頃と同じ表情でシャウトしている。

 

懐かしい曲と懐かしい友。

 

一瞬、これは夢じゃないかと、思わず首を振った。

 

 

 

コンサートが終わり、「じゃあ、また」と、雑踏の中で友と握手をした瞬間、目の前の世界がスローモーションになり、背中を向けたまま彼がゆっくりと私に手を振り、私は小さくうなずいて彼の背中を見送り、前を向いた。

もう一度振り返ったときには、もう彼の姿はなかった。

 

 

― なんだ、やっぱり夢だったのか。

 

現実に戻り、駅のホームを駆け上がった。

 

 

 

 

 

今は、令和元年。

 

 

 

   

 

 

 

  林 正寛