秋の夜長、悶々と。

秋の夜長、悶々と。

  2022/9/15  
     
 

 

 

バブル経済が音を立てて崩れていく最中、長女が生まれ、その2年後に勤務先が倒産した。

 

その後、崩れたバブル経済の瓦礫を反社会勢力の面々などから一つ一つ回収しているところに長男が生まれ、直後に、なにを血迷ったのか、自宅を購入し、多額のローンを背負った。

 

その5年後、妻に相談することなく会社を辞め、暗闇に向かってジャンプ(独立開業)した。

 

 

社会人になって以来、平日に妻と夕食を共にすることはなく、土日も仕事で費やした。

 

子育てや家のことはほとんど妻に任せっきりで、当然、妻の外見的変化に気が付かず、内面的な悩みにも寄り添えず、妻の話は聞いているつもりなのに記憶に残らず、この夫婦生活の中で一体何度部屋が凍てつき、吹雪で視界が悪くなっただろうか。

 

一緒に買いに行ってプレゼントしたコートを着ている妻に向かって、「それいいね。どこで買ったの?」と地雷を踏むこと数えきれず。

 

沈没寸前の船からあわてて自力で脱出しようと乗り込んだヘリが撃墜されたこともあった。

 

 

しかし、バブル経済は崩壊しても、夫婦は崩壊していない(今のところ)。

 

もちろん、できた妻、忍耐強い妻、優しい妻のおかげではあるが、なんといっても大きかったのは、子どもの存在だろう。

 

 

子どもが割り込んできてしゃべっているうちに自然と妻の機嫌がなおったことは何度もあったし、子どもの行事や揉め事、祝い事、受験などのおかげで私にまで気が回らない、私に構ってられないという状況にも救われてきた。

 

 

しかし、長女が数年前に嫁いでいき、そして、この春からは、長男が一人暮らしをするといって家を出た。

 

 

 

このごろは、できるだけ早めに仕事を切り上げ、妻の好きなドラマを一緒に見たりしているが、どうしてもストーリーが頭に入ってこない。

 

「先週はどんな話だったっけ?」「この人は誰だっけ?」「どういう関係だったっけ?」「だれに殺されたんだっけ?」

 

「あなた、いい加減にしてください。あなたと見てるとちっとも集中して見れないわ」

 

 

結局、怒られる始末となり、妻は早々に自分の部屋に戻っていってしまう。

 

仕方がないので、最近、ネットフリックスで海外ドラマを一人黙々と見ているのだが、「先週はどんな話だったっけ?」「この人は誰だっけ?」「どういう関係だったっけ?」「だれに殺されたんだっけ?」

 

巻き戻しては再生、再生しては巻き戻し。

 

結局、この前は、最終回までたどり着けないまま、配信が終了してしまった。

 

― これは一体・・・。

 

 

 

秋の夜長、悶々と寝付けない。

 

 

 

   

  

    

 

 

 

  林 正寛