電子レンジ。

電子レンジ。

  2023/5/17  
     
 

 

 

最近、冷凍食品が脚光を浴びている。

 

高級な食材が冷凍され、「おうちでもあの有名レストランの料理が楽しめる」ということらしいが、「電子レンジでチンするだけ」なんてのも多い。

 

「あら、あなた良かったじゃない。これなら私がいなくなっても安心ね」

 

スーパーの冷凍食品を眺めながら家人は嬉しそうだ。

 

家人の人生プランでは私が先に逝くことになっているので、「いなくなる」ということは、やはり私はこの先、捨てられてしまうのだろうか。

 

 

 

試しに高級冷凍食品を買ってみた。

 

冷凍食品にこんな金額を払うのかと驚くほど高かったが、食べた感想はというと、所詮、冷凍食品は冷凍食品で、食品としての血液が通っていない。

 

いくらチンしても食材本来の旨味はよみがえってこない。これなら、コスパからするとコンビニのほうがマシのように思えた。

 

第一私は電子レンジが使えない。

 

 

 

先日、会社から少し離れたコンビニにお昼を買いに行った。

 

そのコンビニには、初めて入ったが、お昼時にもかかわらずレジが混んでいない。

 

ずいぶん手際がいいのだと思いながらレジに向かい、お弁当を温めてくださいとお願いすると、スッと店員さんは店の奥を指さした。

 

「ご自分でお願いします」

 

店員さんが指をさした方を見ると5台の電子レンジがずらりと並び、レジを通過した人たちが次々にチン!チン!とやっている。

 

レジが混んでいない理由がこれでわかったが、これはマズいことになった。

 

壁には使い方の手順が貼ってある。

 

ひとまず1台の電子レンジの前に立ち、しばらく、使い方と電子レンジと弁当を交互に眺めていたが、どうにもわからない。

 

恐る恐るボタンを押してみたが動かない。

 

この間にも、隣の4台からは、実に小気味よくチン!チン!と電子音が聞こえてくる。

 

一度私の後ろに並んだサラリーマンやOLの人たちも、私が一向に動かないものだから、すぐに隣にスライドし、チン!といわせて店を出ていく。

 

そのうち、こんな私をよほど不憫に思ったのか、私と同年配くらいの男性が手を差し伸べてくれた。

 

「このボタンで500ワットに設定して、このボタンを2回押せば大丈夫です」

 

「ああ、ありがとうございます(涙)」

 

「チン!」

 

ようやく鳴った電子音に感動した。

 

 

 

 

「やさしい人がいてくれて助かったよ。お弁当だけでなく私の心も温まったよ」

 

「あなた、いい加減電子レンジの使い方ぐらい覚えてください。あなたを残していけないじゃないですか」

 

 

 

 

「逝けない」なのか「行けない」なのか聞けなかった。

  

     

    

 

 

 

  林 正寛