心電図に異常あり!?
2015/06/02 | ||
煙草をヘビーに吸って酒を浴び、不規則な生活をしていても、健康診断で「A」以外の判定をもらったことはなかったが、5年前に煙草を止めて以来、「A」以外が少しずつ増えてきた。
年齢というのもあるだろうが、煙草を止め、酒も浴びるのを止めて飲むようにし、食事も控えめにするようにしているというのにだ。
体重は、一旦、禁煙前より15キロ増えた後、何とか5キロ減らしたが、先週の健康診断ではまた5キロ増えて元に戻っていた。
「よほど奥様の食事がおいしいのね」と、健康診断に付き添う看護師のオバチャンが、ありきたりの突っ込みを入れてきた。
「あら、やだ。去年より身長が1センチ縮んでるわ。もう一度、測る?」
「いや、いいです。来年がんばりますので」
「なにそれ、どうやってがんばるの?」
― 真顔で聞き返されてもなぁ…。
「次は聴力検査ね。最近、聞こえにくいとかの自覚症状は?」
「妻の小言が耳に入らなくなりました」
「それは聴力の問題じゃないと思うわ」
「私もそう思います」
「じゃあ次は、この部屋で心電図。その前に腹囲を測るわね。どう?増えた気がする?」
「ええ、たぶん…」
「メジャーをこう真っ直ぐにしないと正確に測れないからね…、ヨイショ」
シャツをまくり上げ、デンッと出てきた私のお腹に小柄なオバチャンが乗っかるようにして背中にグッと手を回し、メジャーを調整しているのだが、どう見てもこれは、オバチャンが私のお腹に頬をすり寄せ抱き付いているようにしか見えない。
今、誰かがこの部屋に入ってきたら、一体、どんな顔をすればいいのだろうかと妙に緊張し、そして、こんなポーズで閉め切った心電図の部屋に二人でいることが急に怖くなってきた。
叫び声は外の人に聞こえるのだろうかなどと考えながら、ドアを見つめていると、
「えーと、84.5センチ。わぁ~、あと5ミリのところでメタボ判定セーフよ」
と、残念そうな口ぶりで私を見上げたオバチャンの目がいくぶん潤んでいた。
― なんだか、アブナイな…。
「そこに寝て、シャツを胸まで上げてね」
「えっ!?」
「あら、どうしたの? 心電図よ」
「いえ、別に。何が始まるのかと思って(少し動悸が…)」
― 心電図を測る前に、こんなにアドベンチャーでいいのか…。
健康診断の所見が目に浮かぶ。
“心電図に異常あり”
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林 正寛 | ||