越後屋。
2019/10/9 | ||
社会人3年目の平成元年春、東京。
世はバブル。
東京は大賑わいで、法人向け融資の営業担当だった私は、仕事と接待に追われる日々を送っていたが、接待は、実に派手で贅沢なものだった。
誘惑も多かった。
「ハヤシさん、このあと、お食事に連れっていってくださらない」
銀座のその店で一番美しいと評判のチーママにアフターに勧誘されたり、
「ハヤシさんとふたりで飲みたいなぁ~。東京タワーのネオンを眺めながら…」
六本木のバニーガールのオネエサンに濡れた瞳で誘われたり。
すべて、断腸の思いでお断りしてきたが、おかげでその後、バブルは崩壊したものの、我が家の崩壊は免れた。
接待終わりに業者からお土産だと菓子箱を渡され、開けると底に金貨がぎっしりと敷き詰められており、「越後屋ぁ~、おぬしも悪よのぉ」とやってみたかったが、そればっかりは、少なくとも私のような担当ベースではなかった。担当ベースでは…。
関西電力の役員ら20人が福井県高浜町の元助役から金品を受領していた問題は、その「金品」のスケールに驚かされる。常軌を逸しているといってもいい。
岩根社長の就任祝いとして、時代劇さながらに、菓子箱の底に金貨を入れて渡していたというから、笑う。おそらく、やってみたかったのだろう。
それにしても、あれだけの金品を受領するのに躊躇はなかったのだろうか。 金品を受け取ればどうなるか、その賢い頭で少し考えればわかりそうなものなのに、あまり賢くなかったのかナ。
りっぱな会社の役員を務めるだけのりっぱな経歴をお持ちなのだろうが、品がなさすぎた。
時代劇では、金貨を渡した越後屋も受け取った悪代官も最後は成敗されるのがお決まりだ。
関西電力の役員どもは、さっさと、必殺仕事人に切られちまえ!
東京タワーのネオンは、私にはちょっと派手すぎて落ち着かない。
通天閣を背に、てっちりをつつきながら熱燗をちびちびやるのがちょうどいい。
私にもこのごろ、ようやく節度が身についてきた。
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林 正寛 | ||