セプテンバー。

セプテンバー。

  2020/9/2  
     
 

 

ペット2匹の位牌を部屋に残して、飼い主が亡くなった。

 

飼い主には身寄りが無いため、位牌を処理しなくてはならない。

 

人間の位牌の処理(お焚き上げ)は、時々することはあってもペットは初めてだったので、ネットで検索し、いくつかあるペット専門のそうした会社の中から、なんとなく良さそうなところを選んで出向いて行った。

 

 

小さなビルのエレベーターを降りると、そこはすぐ部屋になっていて、その部屋の壁一面が小さなスペースに区切られたペットのお墓になっている。

 

お墓には、ペットの生前の写真や花が所狭しと飾られ、あとで聞いたところによると、上の階もお墓になっていて、ビル自体がペットの霊園になっているという。

 

 

「あの~、すみませーん」

 

奥の事務所に向かって声をかけると、泉谷しげるに似た不機嫌そうなイカつい男性が出てきた。

 

― うっ!選択を間違えたか。

 

「ペットの位牌のお焚き上げをお願いしたいのですが」

 

「1柱5,000円です」

 

「あれ?人間より高いんですね」

 

「それは知りません。どうされますか」

 

それはそうだろう。人間より高いか安いかなんて、この人の知ったこっちゃない。

 

あらためてお願いすると、申込書を渡された。

 

 

名前を書く欄があったので、会社名と私の氏名を書いていると、

 

「ああ、そこはペットちゃんの名前なんですぅ」

 

― ペットちゃんって、あなた、その顔で。

 

位牌の後ろに書いてあるペットの名前を記入して申込書を渡した。

 

「〇〇ちゃんと△△ちゃんですね」

 

「はい、〇〇ちゃんと△△ちゃんです」

 

泉谷しげるにつられて思わず復唱した。

 

 

私は、犬猫は、あまり得意な方ではないけれど、手続きを終え、その小さな小さな位牌を手放すとき、妙な儚さを感じ、胸の奥の方が熱くなった。

 

泉谷しげるに1万円を支払い頭を下げ、領収書をもらってビルを後にした。

 

 

 

その日の夜。

 

自宅に向かって車を走らせていると、ラジオから、Uruの「あなたがいることで」が流れてきた。

 

♪~

目が合えば笑って 一緒にいれば楽しくて

共に過ごした毎日は かけがえのないものだった

 

 

 

― あの2匹と飼い主さん、会えたかなぁ。

 

 

 

 

どしゃ降りの中、アクセルを踏むと、雨音でラジオの音がかき消された。

 

 

 

9月の雨。

 

季節のうつろいを感じる。

  

 

 

 

   

 

 

 

  林 正寛  
     
     

株式会社アスキット・プラス

 

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