香水。

香水。

  2020/9/16  
     
 

 

そもそも昨年あたりから、飲み歩くのがおっくうになってきて、取引先との外食の機会が減っていたが、そこに今回のコロナ騒動が勃発したため、夜の街関連から離れた。

 

肺と肝臓に爆弾を抱える私は、感染した場合の重症化リスクが高い。

 

あなたは、命とクラブ活動とどちらが大切ですかと、わざわざ自問自答してみたが、答えは明白だった。

 

こんな私でも命は惜しい。

 

 

 

雰囲気は嫌いではない。

 

香水と煙草の匂いが交差する空間にオネエサマの嘘っぽい笑い声と客の歓声が響く、そんなちょっとバカげた刹那に身を置くのもたまには悪くない。

 

少しばかりお高い料金設定も、接待だからと開き直り、はじめから騙されたつもりでいれば、気にはならない。

 

 

 

 

そんな世界から遠ざかって6ヶ月が過ぎるが、先日、ある店のオネエサマと昼間、ばったり会った。

 

 

彼女は、客足がもどらない夜の店だけではさすがに生活が厳しくなったため、昼間も働くようにしたらしい。

 

夜飛ぶ蝶々に当初、昼間の太陽はまぶしくて仕方がなかったようであるが、このごろはようやく慣れ、昼と夜のフル稼働で生活を支えていると笑いながら話をしてくれた。

 

夜のあの嘘っぽい笑い声ではなく、コロナと向き合い、しっかりと必死に生きている人の力のこもったちょっと誇らしげな笑い声だった。

 

 

「ハヤシさん、じゃあ、またね」

 

マスク越しにもしっかりと香る香水のにおいを周囲にまき散らしながら、彼女は遠ざかっていった。

 

― この香水で昼間の仕事っていったい・・・。

 

 

 

 

いつもと違う夏がいつものように過ぎ去り、街には、いつもと同じ秋の気配が漂い始めた。

 

 

 

あの空間が少しだけ懐かしい。

 

 

 

 

♪~

君のドルチェ&ガッバーナの

その香水のせいだよ

  

 

 

 

   

 

 

 

  林 正寛