博多で。

博多で。

  2020/11/11  
     
 

 

 

仕事の関係で、最近何度か、新大阪と博多の間を新幹線で往復している。

 

 

関東方面へは年に何度か行く機会はあっても、九州方面は珍しいので、新幹線の窓から眺める景色も新鮮だし、先日は、博多駅前で早くも始まったクリスマスイルミネーションの飾りつけ作業に思わず足を止めた。

 

 

この際、一泊して、中洲でゆっくりと博多を満喫したいところではあるが、どうしてもコロナが気になり、やむなく日帰りを選択している。

 

 

 

 

先の博多への出張の際、住宅街にポツンとあった寿司屋の暖簾をくぐって握りをつまみ、そろそろ席を立とうとしていたところ、馴染みだろうか。店の大将と話をしている声が奥から聞こえてきた。

 

 

「4月にオープンしたばっかりの駅前のホテルが閉店したらしい」

 

 

― 福岡市は、企業の支店や支社が多く、東京や大阪から出張してくるビジネスマンが多い街だが、今年はコロナの影響で、それも少なくなった。出張どころか会社にさえ行けない日々が続いたわけだからナ。

 

 

 

「ホテル経営者は気の毒だが、命には代えれん。仕方ないだろう」

 

 

― やむを得ないところだろう。オープンしてすぐに緊急事態宣言では、とてもじゃないが耐えられない。

 

 

 

「東京や大阪からコロナを持ってこられても、こっちもかなわんしな。できるだけ来んといてほしいわ」

 

 

― ギクっ!

 

 

 

「来るときは、私は東京から来ました、大阪から来ましたと、紙に書いて首からぶら下げといてくれたら、わかりやすくてエエけどな」

 

 

― まずい。わ、私、大阪から来ましたけど・・・。

 

 

 

 

普段、店を出るときは、「すんません、おあいそして」から始まり、「おおきに」とか「ありがとう」とか「美味しかったわ」とか、まあ、なんやかんや言いながら出るのだけれど、今日ばかりは、口を開けばバレる。

 

 

丁寧にしゃべればしゃべったで、怪しまれるにきまってる。

 

 

やむなく、小さーな声で、「ごちそうさま」とだけ言い残し、ペコペコと会釈しながら、そそくさと店を後にした。

 

 

 

 

 

― 暮らしにくい世の中になったなぁ。でも、クリスマスのころにまた来るわ。

 

 

― ああそうですか。

 

 

振り返ると、店の入り口に置いてあった大きなタヌキの置物が、呑気な顔をして風に吹かれていた。

 

 

 

晩秋、博多で。

 

 

 

 

   

 

 

 

  林 正寛