ベンツ。

ベンツ。

  2021/5/13  
     
 

 

 

高級車で思いつく車種はと問われたら、たくさんの人が「ベンツ」と答えるだろう。

 

機能、性能、安全性、スタイル、どれをとっても申し分なく、エレガントに乗れば、これほど素敵な車はない。

 

 

それなのに、なぜか、「ベンツは行儀が悪い」というイメージが強い。

 

 

実際、高速道路の追い越し車線を猛スピードで走っているのをよく見かけるし、街中でも、ウインカーを出さずに車線変更をしたり、強引な運転が目に付く。

 

 

ベンツに乗る人は、そもそも行儀が悪いのか、それとも、ベンツを乗ると行儀が悪くなってしまうのか。

 

 

 

少し前の話になるが、交差点の赤信号で停車中のこと。私の前には黒塗りのベンツが止まっていた。

住宅街の中にある小さな交差点で、止まっているのは、私の車とベンツの2台だけ。

 

しばらくして信号が青になったものの、ベンツは止まったままで走り出さない。最近よくあることだが、運転手はスマホを見ていて、信号に気が付いていないのだろう。

 

こういうときは、クラクションを鳴らすかどうか迷う。

 

もう気が付くだろうと待つとなかなか気が付いてくれない。クラクションを鳴らすと、同時かほんの少し前に走り出したりして、クラクションを鳴らしたこちらの方がばつが悪くなる。

 

 

このときは、ベンツ。まあ、穏やかに待つのが順当だろうと待っていると、信号が赤に変わってしまった。

 

そして、再度、青信号になっても動く気配がないので、クラクションを鳴らすと、また、タイミングが悪いことに、ベンツが走り出すと同時だった。

 

クラクションに腹を立てたのか、ベンツは急停車し、運転席からいかにもベンツに乗っていそうな厳つい感じのオジサンが出てきた。

 

― どう対処しようかナ。

 

と思ったとき、私の後方には、いつの間にか、これまたでかい黒塗りベンツが停車しており、その運転席から、サングラス姿のチョー厳ついオジサンが顔を出し、クラクションを鳴らしながら、「早よ行けや、コラー」と一喝してきた。

 

前のベンツのオジサンは、その声に驚き、ドロボーが肩をすぼめて逃げるように、そそくさと車に戻ったものの、そのころにはまた、信号は赤。

 

私は、そっとバックミラーで後ろのベンツの人を見ると、バックミラー越しでもわかるほど眉間に深いシワを寄せ、「めっちゃ怒ってる」感じ。

 

 

おそらく、普段はフツーだけどベンツに乗ると行儀が悪くなるオジサンが運転するベンツと、そもそも行儀が悪そうなオジサンが運転するベンツに挟まれたまま、私は何度目かの信号待ちをしながら、ラジオのボリュームを上げた。

 

 

 

 

 

 

ベンツはエレガントに乗ろう。

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

  林 正寛