負け惜しみ。

負け惜しみ。

  2021/5/25  
     
 

 

 

平成29年5月、38歳のサラリーマンが妻と幼い子を残し、自らこの世を去った。

 

残された多額の負債のため、妻は、相続を放棄し、8年前に購入したばかりのマイホームを出た。

 

遺書はなかったので、理由は誰にもわからない。

 

ただ、金融機関と不動産会社のカモにされたのは明らかで、多額の負債は、東京都内にあるいくつかの投資用のマンションや地方都市にある賃貸マンションを購入したものであった。

妻は、まったく知らされていなかった。

 

 

投資の内容を見ると、実に杜撰なものであるが、おそらく素人であろう一介のサラリーマンを言葉巧みに勧誘し、マンションを購入させた不動産会社と、その不動産会社と共謀するかのように多額の融資を行った金融機関に強い怒りを覚えた。

 

 

相続財産管理人と相談し、マイホームは、妻の手許に戻すよう段取りした。

 

妻は、思い出の詰まったマイホームに子どもとともに戻れることを喜び、お会いするたびに涙を流されていた。

 

涙を拭う妻の横で、いまいち事情を理解できていない幼い子どもの屈託のない笑顔が、周りにいる大人たちの涙を誘った。

 

 

私は、不動産をすべて処分し、債務を返済することで男性の仇を取ってやろうと意気込んだものの、雀の涙のような投資利回りと多額の負債のため、不動産の売却は進まず、特に、地方都市にある賃貸マンションは、明らかにマーケットとミスマッチしていた。

 

 

 

「あなたも不動産のオーナーになれる」とか「不動産投資で確実に儲ける」なんていう宣伝をよく目にする。

 

「節税」なんかも、キーワードの一つかもしれないが、不動産投資は、金融機関や不動産会社といった取り巻きが悪すぎる。彼らが優先するのは、自分たちの儲けであって顧客の儲けなど頭の片隅にもない。素人が手を出してはいけない商品である。

 

 

妻に怒られ、子どもに無視されても、コツコツとまじめに働き、ブツブツ言いながら納税する。できれば、貯金はするが、出費に追いつかない。この繰り返しが人生である。

 

 

そして、お金というのは、少し足らないくらいの方がちょうどいいように思う。

私がいえば、負け惜しみにしか聞こえないのかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

先月、ようやくすべての不動産の処分が終わった。

 

 

4年かかった。

 

  

 

 

   

 

 

 

  林 正寛