のびしろ。
2021/11/29 | ||
長女の手を引いて七五三のお参りをしたのは、ついこの前のことだ。
今でも情景をよく覚えている。
秋晴れの下、島根からお祝に来てくれた私の両親は、久しぶりに見る孫の成長ぶりに驚き、目を細めていた。
あれから20数年。
その長女が妻となり、母となり、そして私は今度は、祖父として、3歳になる孫の手を引き、長女の七五三参りの時と同じ神社の境内に立っている。
孫は、長女が七五三の時に着ていた着物をひらひらさせながら、嬉しそうに境内を走り回っている。
実に複雑な心境極まりない。
この20数年で世の中は大変貌を遂げた。
ネット社会を中心に生活スタイルはすっかり変わった。
私はバブル崩壊後の濁流から脱出し、人生も体形も大きく変わった。 太ったし、しわが増えたし、白髪も増えた。 大好きだった煙草を止め、酒を飲む量も減った。
そして、両親は、今はもういない。
七五三参りの翌日、日帰り強行で両親が眠る納骨堂へ初めてお参りしてきた。
ちょうど一年前に墓じまいをしたものの、納骨はお寺に任せ、またすぐにと思っていたが、コロナウイルスに阻まれてきた。
墓じまいをしたこと、そして、こんな狭い納骨堂へ先祖諸とも押し込んだこと、歴史ある家を売却したことなど、両親には詫びることばかりだったが、孫の七五三の報告ができ、胸のつかえが下りた。
― ひ孫の七五三参りのころには、私はもういないンだろうな。
とっぷり日が暮れた帰りの高速道路を走りながら、そう思うとなんだか切なくなり、寂しさを紛らわすためにアクセルを踏み込み、前の車を追い越した。
すると、真っ暗な後部座席から声だけが聞こえてきた。
「あなた、飛ばさないでくださいよ」
「ここで事故でもして死んでしまったら、ひ孫の七五三に参加できなくなるじゃありませんか」
「あなた、聞いてますか」
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林 正寛 | ||