主人公。

主人公。

  2022/1/24  
     
 

 

 

2週間ほど前のこと。

 

成人式が開催され、息子が参加した。

 

 

 

オミクロン型の感染拡大で中止されたところもあるので、参加できなかった新成人の方の心情を思うと申し訳ないのだが、親としては、“良かった”の一言に尽きる。

 

 

彼は、アルバイトで塾の講師をしているので、スーツ姿は見慣れてはいるのだけれど、7つ上の姉からプレゼントされたネクタイを締めた晴れの日のスーツ姿はまた特別で、我が子ながら、物語の主人公のようにとても格好良かった。

 

 

大学生活は、コロナ感染症の影響で思いどおりにいかず、傍で見ていても気の毒で仕方がないが、彼からは、まず不満めいた発言を聞いたことがない。

 

そういえば普段から、暑い、寒いも彼はほとんど口にしない。

 

彼は子どものころから、島根に帰省する遠路の車中でも、「まだ着かへんのかよぉ~」とブツブツと文句の多い姉の横で、涼しい顔をしてジッと座っていた。

 

彼にしてみれば、不満を口にしたところで、“どうにかなるものでもない“といったところだろう。

 

 

「あなたと同じAB型だし、一体なにを考えているのか私には理解できません」

 

家人にいわせるとこうなるが、私には彼がなにを考えているのか、大体わかる。ただ、わからないのは、なぜ彼がこうもまじめに育ったのかだ。

 

 

まじめくらい美しいものはないし、私もいつもまじめでいようと思ってはいるが、なかなか思い通りにいかないものだ。

 

もしかすると、私のいないところで家人が、「まじめにしないとお父さんみたいになるわよ。そんなの嫌でしょ」ぐらいのことはずーっと彼の耳元でささやき続けてきたんじゃなかろうか。

 

でなければ、彼なりに父の背中を見て、「ああはなるまい」と強く誓ったか。

 

 

 

成人式前夜。

 

最近、彼が味を覚えだしたワインで乾杯しようと思い、とっておきのやつを出してきたら、「お父さん、これからジムに行くので今日はやめておきます」

 

父が負けっぱなしの誘惑にも、息子は負けないのだ。

 

 

― いつか、私と家人を高級介護施設にいれてくれないかなぁ~

 

 

 

 

成人式に向かう息子の背中に手を振っているうちに、なんだか泣けてきた。

 

見上げるときれいに晴れ渡った青空が目に痛かった。

 

 

 

 

年の始めに成人式があった。

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

  林 正寛