無限の彼方。
2022/8/3 | ||
この春から親元を離れ、一人暮らしを始めた息子から先日、ラインが届いた。
「今夜はすごく星が見える」
家にいるときは会話らしい会話もなく、返ってくる言葉といえば、「フツー」とか「別に」とか。
そんな息子から連絡が入るだけでも意外なのに、その内容にまた驚かされた。
息子といえども、心の内までは見えない。
慣れない一人暮らしの中、なんの拍子に夜空を仰ぎ見たのかはわからないが、彼なりに心境の変化があったのだろう。
米航空宇宙局(NASA)などが、30年近い年月と約100億ドルの費用をかけて完成させ、昨年冬に打ち上げた巨大な宇宙望遠鏡の観測画像を初めて公開した。
性能は、既存の宇宙望遠鏡の100倍とされ、公開された画像やデータは、新しい恒星が生まれつつある場所や、地球から遠く離れた恒星を周回する太陽系外惑星などを観測したもので、これまで発見された中でも最も遠い部類に入る130億光年以上離れた銀河も写っているそうだ。
確かに、公開された画像を見ると、幾多の星が輝き、現実のものとは思えないほど美しい。
銀河や恒星の観測に詳しいある大学教授のコメントからその興奮が伝わってくる。
「予想以上に凄い。今まで見えなかったものが、はっきり見えた」
「たなばたのほしにいって、 そうめんをたべたり てれびをみたりしたいな」
今年の七夕に4歳の孫娘が短冊に書いた願い事だ。
これでいいじゃないかと思う。
はっきりと見えるのにどこか現実離れしている何億光年離れた銀河や夜空に広がる幾多の星よりも夢があって、それでいて、ちょっとだけ想像もできたりするし、行ってみたくなる。
息子からのラインで、すぐに空を見てみたが、残念ながら私の自宅から星は見えなかった。
ただ、離れて暮らす息子と一緒に見上げた夜空に、何かを見たような気がした。
夢や希望。行き場のない怒り、悲しみ。
いくら100億ドルの宇宙望遠鏡をのぞいたって見えやしない。
私たちは、無限の彼方で生きている。
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林 正寛 | ||