今年もまた、1年。

今年もまた、1年。

  2023/1/19  
     
 

 

 

大学生のころ、母親命令で「森進一ショー」に付き合わされたことがある。

 

当時、ロックやフュージョンにのめりこんでいた私は、もちろん演歌に興味はない。

 

オジサンとオバサンだらけの観客の中、大学生の私は、明らかに浮いていたし、席についてからも母親の命令にしたがった自分を恨んだ。

 

森進一は、キラキラのスパンコールのタキシードに身を包み、割れんばかりの拍手歓声の中、舞台中央に現れるとゆっくりとお辞儀をし、それが合図であったかのように伴奏が流れ始めた。

 

― あ~ぁ、退屈やな~

 

 

 

ところがだ。

 

初めて聴くナマの森進一の歌声に驚いた。

 

森進一がよくモノマネされる、あの、かすれ声での「こんばんは、もりしんいちです」とは裏腹に、とても澄んだ、声量のあるのびやかな歌声。

 

その歌声に惹きつけられ、観客席は、まばたきも息をすることさえも忘れたかのようにしんと静まり返り、1曲が終わると我に返ったように、会場は割れんばかりの拍手に包まれる。

 

森進一は、直立不動で歌い続ける。

 

繰り返される静寂と喧騒。

 

ステージ効果もあるだろうが、目に浮かぶ情景や情念、ときに怨念にも近いような人間の心の底にある情を歌い上げた森進一に、歌の実力と本物の演歌を見せつけられ、終わりごろには、私は感動で泣きそうになり、その涙をこらえようと、どのオジサンよりもオバサンよりも力を込めて拍手をしていた。

 

 

 

 

昨年の紅白歌合戦を見終えたあと、私は、「森進一ショー」のことを思い出していた。

 

― 紅白って、これでええんやろか。

 

 

チャンネルはすでに切り替わっていて、テレビではジャニーズのカウントダウンライブが流れていた。家族が楽しそうに、ジャニーズと一緒にカウントダウンを口にし、0時を回ったところで、“イェーッ”

 

家族でハイタッチを交わした。

 

― ああ、まあ、これでええんかも・・・ナ

 

 

 

 

年末の慌ただしさも、年始の静かに澄み渡った青空も、もうなんだか遠い過去のできごとのような気がする。

 

 

 

今年もまた、1年。

  

   

  

    

 

 

 

  林 正寛