これじゃあ貞子も浮かばれない。
2016/08/26 | ||
見ようと思って見たわけではないが、つい1話だけ見てしまい後悔した。
「ほんとにあった怖い話」という何話かあるホラードラマ。
見ている最中はたいした怖さは感じないが、問題は、テレビを見終わり、あれこれしながら時間を費やし、いざ寝ようと布団に入って明かりを消したあとにやってくる。
目を閉じると忘れていたドキドキの場面が急に頭に浮かんで離れなくなる。
私は、夏の間は空調の関係で、部屋の襖を30センチほど開けて寝ているが、そのわずかな空間が気になって仕方がない。
襖から顔を出して確認してしまえば、ドラマの予定調和どおり、そこに何者かがいるに決まってるので、ひとまず、襖の横に誰か潜んでいないか、何者かが廊下を歩いてこちらに向かって来てやしないか、耳に全神経を集中させ、用心深く様子を窺う。
しばらくして、これならダイジョウブそうだと目を閉じるが、襖の空間がどうしても気になる。
襖を閉め切ってしまうと暑いし、開け放つとエアコンの風があたり過ぎて肌寒い。普段は快適なこの30センチが不快極まりない。
とはいえ、30センチに背中を向けてしまうと背後から襲われる危険性が高くなるので、そこで再び、30センチを凝視しながら耳に神経を集中させる。
― わしは一体何をしとるんだ。
これではいつまで経っても眠れないと思い、気分を変えようと部屋の明かりをつけ、襖を開け、夜更かし中の長男の部屋をのぞいてみると、こちらはヘッドフォンで音楽を聴きながら友達とLINEでやり取りをしていた。
最近の若い人の典型のようなスタイルだが、これでは例え貞子が近づいてきても何の気配も感じないだろうし、現れたとしても気が付かないのではないか。
― これじゃあ貞子も浮かばれんナ。
肩をポンポンと叩くとはじめて私に気が付き、ヘッドフォンを外した長男に、「何を聴いてんの?」
「別に!」
― なんだ、沢尻エリカじゃあるまいし…。
その夜は結局30センチが気になり、一晩中寝苦しかった。
「あら、あなた。どうしたんですか、朝からぐったりして」
「別に!」
「嫌だわ、沢尻エリカみたいで」
沢尻エリカのような可愛い幽霊はいないものかね。
いや、それでは貞子が浮かばれないか―。
寝苦しい夜がまだ当分続きそうだ。
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林 正寛 | ||