桜の花びら散るたびに。
2018/4/8 | ||
起業した当初は、時代背景も手伝い、企業再生のコンサルティングに力を入れて取り組んでいた。
サラリーマン時代の経験がブランドのような価値を生み、仕事は順調だった。自信もあった。
そんな矢先、従業員10名ほどの会社のリスケジュール案件。
難しい案件ではなかった。事業計画書を作成し、会社の代表者と借入先金融機関を一社ずつ説明して回った。金融機関の評価は上々だった。
金融機関を回りながら私は代表者に、「一段落するころには桜が満開でしょう。社員さんたちと夜桜見物に行きましょうね」
代表者は、「うん、そうやね。林さん、ありがとうね」とにっこりと笑ってうなずいていた。
その後、予定どおりすべての金融機関から合意を得られた。
そして4月。
私は散りゆく桜をひとりで見上げていた。
代表者は、満開の桜を見ることなく自死してしまった。
後からわかったことであるが、簿外債務が山ほどあった。
再生ではなく清算のレベル。私はすぐに弁護士を採用し、他の役員、社員を前に説明し、会社を清算する手続を進めていくことを説明し、弁護士にバトンを渡し、会社を後にした。
簿外債務があることは、慎重に見極めをしていれば発見できたかも知れなかった。
社長が自死をする前日、今から思えばその兆候はあったが、見過ごしてしまった。
― まあ、大丈夫だろう。
自信が過信となり、どこか傲慢になっていた。
あれから10年。
私にとっては忘れられない痛恨の記憶。
忘れてはならない記憶。
今年も。
桜の花びら散るたびに。
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林 正寛 | ||