濃厚接触。

濃厚接触。

  2020/10/12  
     
 

 

仮に私がコロナに感染したとして、家人は、濃厚接触者には該当するのだろうか、などと時々考える。

 

 

寝室は別々だし、平日はまず、一緒に食事をすることがない。

 

さらに、その少ない食事の機会でも、大皿に料理を盛り付けるのは禁止され、私は、これまでの指定席だったテーブルの短辺にあたる場所(お誕生日席)から追いやられ、今は、家人の横に座らされている。

 

歯磨き粉も別々で、手はペーパータオルで拭く。

 

 

もちろん、夜の街をほっつき歩くのも禁止され、その代わりに、私には、毎晩寝る前には、アルコールの効いたウエットティッシュで、ドアノブや照明のスイッチ、テレビのリモコンなど、家の中を拭いて回ることが課せられている。

 

これがなかなか面倒くさいのだが、私は家のことは一切しないので、私が寝たきりになったときに捨てられないよう、こんなところで点数を稼いでおかないと、あと稼ぐ場所がない。

 

 

そんな中、事件は起きた。

 

 

「あなた、どうしましょう」

 

いつも沈着冷静な家人が、不安そうな顔で訴えてきた。

 

「私、コロナに感染してしまったかも」

 

― これはまずいことになった。病院に連絡か、いや、まずは保健所か・・・。

 

「熱でもあるのか。しんどいのか」

 

「わたし、あなたと濃厚接触してしまったみたい。大丈夫かしら・・・」

 

「・・・」

 

 

聞けば、テーブルに置いてあった私の飲みさしのお茶を自分のものと間違えて飲んでしまったらしい。

 

 

「いつも用心しているのに、まさかこんなことで感染するなんて」

 

― まずい。このままでは、部屋が凍てつき、視界が悪くなる。

 

「そもそも、そんなところにコップを置いているあなたが悪いんです」

 

― やばい、浸水してきた。船が傾くぞ。

 

「PCR検査をしてきた方がいいかしら」

 

「ああ、心配なら検査してくれば。うん、絶対その方がいいよ」と真顔で家人の体を心配しつつ、

 

 

― バカも休み休み言え!私はコロナではない!

 

 

と心の中で叫ぶ。

 

 

 

 

コロナより

断然怖い

妻の機嫌

 

 

 

  

 

 

   

 

 

 

  林 正寛