焼鳥チェーン店「鳥貴族」280円均一の功罪。
2013/01/05 | ||
鳥貴族は、関西、東海、関東に約300店舗を展開する焼鳥チェーン店。 目標は、全国2000店舗。 コンセプトは、全品280円均一の低価格・高価値で、お客に感動と驚きを与えること。 そして、使命は、「外食産業の社会的地位向上」、理念は、「世の中を明るくしていくこと」である。
正直いって、鳥貴族は、冷凍の輸入モノだと勝手に思っていたので、まったく行く気はなかったが、実際は、新鮮な国産鶏肉を使用し、毎日、一本一本、串打ちしているらしい。
単一業態にこだわることで、質の高い食材の調達力をアップさせ、徹底した管理によりコストダウンを実現させ、メニューを絞り込む。 低価格・高価値をお客に提供するための経営努力は怠らない。
そんなわけで、先日、初めてお店に行ってきた。 店内は、テーブル席や座敷を中心にゆったり目に配置され、居心地はいい。 メニューも、絞り込みされている分、見やすくてセレクトしやすい。 従業員は元気よくテキパキと動き、あまり待つことなく注文の品がテーブルに届けられ、味も悪くない。
コスト削減のため、炭火焼のこだわりを捨て、電気グリラーを使用しているが、特に味に影響はないように思う。 そして、やはり安い。精算時に提示された金額は、感覚的なそれとは明らかに低いものであり、料金的なお得感もある。
それなのに、なぜか胸にぽっかりと空いた穴が埋まらない。 満足感の得られない空虚なこの思いは一体なんなんだ?
その答えは、焼鳥屋さんらしくないこと。焼鳥屋さんとしての臨場感がないこと。
最近の居酒屋チェーンは、ファミリーでも行けるようなコンセプトを揃え、メニューも豊富である。 たぶん、「居食屋」として、「豊かで楽しいもうひとつの家庭の食卓」を基本コンセプトとして登場した「和民」がその主流ではないかと思うが、お酒を飲まない人でも、子供でも楽しめる。
一方の焼鳥屋さん。これは本来、大人の世界。いわゆる赤ちょうちんと同列。 カウンターで、ちまちま焼き鳥を食べながら、吉幾三の「酒よ」を聞き、お酒をコクリ。 ひとり、目の前にある真っ赤に焼けた炭火を見つめながら手酌酒でもいい。 ジュウジュウと焼き鳥が焼け、煙で店はけむる。 涙は悲しいからじゃない、煙が目に沁みただけ……。
おっさん、なにゆっとんねん!って怒られるかもしれないが、「焼鳥屋」に行く以上は、その雰囲気、臨場感も大切なのだ。むしろ、その臨場感を求めて行っていると言っても過言ではない。
あの「餃子の王将」しかりである。 餃子の王将は、平成12年ごろ、不況のため外食産業が不調に陥った際、コスト削減を図ろうとして他の外食チェーン店と同様、セントラルキッチンの食材を大幅に増やしたが、王将らしさがなくなったと不評で、結局は元のオープンキッチンスタイルに戻して、離れたお客を取り戻した。 あの、カウンターの目の前でジャージャーと調理する例のタイプである。
鳥貴族は、セントラルキッチンではないものの、スタイルやオペレーションはファミリーレストランである。 その一方、営業時間は夕方から夜間であり、当然、アルコールを扱うので立地条件に制限があるため、チェーン店としてのスケールメリットを得るための店舗数の拡大は並大抵のことではないと思う。
本来の焼鳥屋さんとしての業態から離れたスタイルが、どこまで市場に受け入れられるか。 いや、反対に、煙が目に沁みる焼鳥屋さんは時代遅れであり、その存在は遠い昭和の残像か。
鳥貴族の今後に注目である。
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林 正寛 | ||