夜飛ぶ蝶々。
2016/05/12 | ||
先日知り合った50歳のライフプランナーの方はたいそうカラダを鍛えておられた。
私と2歳しか違わないのに、全身は筋肉のカタマリといった感じで、二次会のお店では、オネエサマ方にその鍛えた筋肉をチラリと披露しては黄色い声をかけてもらっていた。
ところが、そのようなお店のオネエサマ方はとても心が広くできているので、この頃は地球の重力にも耐えられなくなってきた私のお腹を指差しながら、「意外とこれもカワイイかもぉ~」などと、わかりやすい「嘘」で適度にかまってくれる。
「カワイイ」は男性全般に通用する万能の言葉で、この言葉を繰り返しておけば大概のオヤジは喜ぶ。
大体、52歳のまるで覇気の無いプヨプヨのお腹が「カワイイ」はずがない。「嘘」だと知りながらもそこは社交辞令というか、ノリ突っ込みを入れながら、店も客も掴みどころのない「エア」な感覚を楽しむといった塩梅である。
しかし、こんな例外もある。
私の知り合いのA氏(当時45歳)は、お店のオネエサマ方にちやほやされるのがチョー嬉しくてたまらず、その中でも特に熱心にメールや電話をくれるM子(当時20代後半。たぶん…)に夢中になり、ずいぶんと食事にも連れて行ったらしい。
M子にしてみればA氏は、年齢的にも大人の領域にあり、円満な家庭を持ち、社会的地位に時間と金もある上質なお客のうちの一人。最高の微笑みで「カワイイ」を連発し、A氏をちやほやした。
ところがA氏は、M子のちやほやは、M子はただ一生懸命仕事をしているだけであり、若しくは食事のお礼・お返しに過ぎないということが読めず、ちやほやしてくれない奥様(当たり前だけど…)から心が離れてしまった。そして…。
ある年のゴールデンウイーク。会社の近所のスーパーで食料品を買い込んでいるA氏にバッタリお会いした。
「あれっ、今日はお一人ですか?」
「いやぁ、実は妻とは別れまして」
「…まさかM子ちゃんと?」
「それがM子も店を辞めてしまって、その後連絡が取れないんです」
「(捨てられたんだ)……」
「どうやら舞い上がっていたのはオレ一人だったようで…」
「(そりゃそうだろう)で、M子ちゃんになんて言ったんですか?」
「妻と別れたからって」
「(マジかよ…)そ、それで?」
「店をやめて一緒に暮らさないかって」
「バカじゃねーの」と言いそうになって慌てて口を押え、A氏と別れた後、歌い尽くされた古い曲を口ずさんだ。
♪~ 夜咲くネオンは嘘の花 夜飛ぶ蝶々も嘘の花 嘘を肴に酒をくみゃ 夢は夜ひらく
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林 正寛 | ||