もともと特別なOnly one。

もともと特別なOnly one。

  2016/12/06  
     
 

去年のことであるが、昼時分に会社の近所の天神橋筋商店街をウロウロしているときだった。

 

あるお店の前に大きな人だかりがして、若い4人の男性が「うめ~」とか叫んでいる。

 

天神橋筋商店街のお笑い芸人さんによる食レポは日常茶飯事であるが、どうも雰囲気が違うので、隣にいたOL風の女性に、「誰ですか?」と尋ねると、“そんなこともわからへんのかよ”と書いた顔を私に静かに向けながら、「KAT-TUNです!」と―。

 

天神橋筋商店街に「カトゥーン」とは珍しい。さっそくスマホで写真を撮ろうとしたら、目つきの悪いお兄さんがサッと現れ、スマホを手で覆ってきた。

 

― なんやこいつ、邪魔すんなよ。

 

と手を振りほどき、さらに写そうとするとまた手で覆ってくる。口は一切開かず、手だけで行動を制されるのは、案外、プレッシャーを受けるもので、

 

― はいはい、わかりましたよ。止めりゃあいいんでしょ。

 

と諦めて背中を向け、帰る素振りを見せながら、お兄さんの視界から外れた遠方からもう一度撮ろうとすると、違うお兄さんがサッと現れ、またスマホを手で覆ってきた。

 

「カツゥーン」からはもうだいぶ離れていたのに、こんなところまで警備がいるのかと驚いたが、勝手に撮影する私も良くないにしても、なんだか彼らとの距離を感じさせられ、少し残念な思いがした。

 

この後、「カツーン」は、メンバーの脱退、グループでの活動を休止した。

 

 

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仕事というのは憂鬱なもので、別の言い方をすれば、憂鬱じゃなければ仕事ではないのかもしれない。

 

憂鬱の質は、業種や立場、勤続年数などによって異なるだろうが、そこはアイドルだって同じだろう。

 

アイドルになれた喜びはあるかも知れないが、若いうちはともかく、年齢を重ねれば、自分を取り巻く社会や人というものがどういうものなのかが見えてくるし、ましてやグループの場合だと、メンバー全員がいつまでも同じ方向を向いていることなどあり得やしない。

 

人気アイドルともなると常にマスコミやファンの目もあるし、おまけに長くやっていると「日本を代表する」なんて冠言葉がいつしか名前の前につくようになり、勝手なイメージが定着してしまう。

 

方向性が自分の考えと違っていたり、メンバーや事務所との軋轢があったとしても、毎日周囲の期待どおりに振る舞わなければならないのは、苦痛以外のなにものでもないだろう。

 

 

「日本を代表する」アイドルグループが年末で解散する。

 

ファンの間では、署名を集めたり、CDの購買活動をしたり、どうにか解散を阻止しようとしているし、テレビ局は最後の勇姿を生で伝えようと出演オファーを続けているらしい。

 

アイドルの衣装を着て、アイドルを演じ、ファンのみならず国民の期待に応え続けて25年。

 

もうすっかり中年になったアイドルたちは、この1年をどんな思いで過ごしてきただろうか。

 

そして今、解散を前にして、もう一度ステージに立って歌えという。

 

 

もう許してやってはどうか。

 

大人の男が決めた引き際を静かに見守ってやってどうか。

 

お疲れさまといってやってはどうか。

 

もう十分ではないか。

 

 

グループは解散したとしても、彼らが存在した時間や場所が、私たちの心の中から消滅するわけではないのだから。

 

それに、これからはもっと至近距離で、アイドルの衣装を脱ぎ捨てた等身大の彼らを見られるかも知れない。

 

それもまた楽しみである。

 

 

もともと特別なOnly one―。

 

 

 
  林 正寛  
     
     

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