冷たい雨が降りしきる中で、豪邸にお住いだったお客様の引っ越し作業。早く止んでくれないかと何度も空を見上げたのは今年1月。引越しは3日かかった。

新地のお店から会社に届いたプリザーブドフラワーを受け取った事務員さん（家人）が、「あらぁ、素敵じゃないですか」と、眼だけが笑っていない満面の笑み（これができる人はそういません）を浮かべているのを見て、天を仰ぎ神に救いを求めた2月。

予定どおり花粉症が始まり、一体、どこに花粉が飛んでいるんだと、空を見上げて見えない敵に目を凝らした3月。

可愛い女優さんのＣＭに釣られ、いつもと違う花粉症の薬を服用したため、全身に出た赤い発疹に天を仰いだ4月。

阪神タイガースの名手鳥谷内野手のまさかの落球に、甲子園中が天を仰いだ5月。

AKB総選挙に連覇した指原莉乃とのあまりにもの大差に天を仰いだ2位まゆゆの姿が印象的だった6月。

猛暑に汗を拭き拭き太陽を見上げた7月。

家人と2人で河川敷に腰を下ろし、打上げ花火を見上げた夏の終わり。

家人との初めてのこうしたシチュエーションに戸惑う私の横で、家人が空を見上げながらつぶやいた。

「あなたとこうして2人で花火を見た今夜のことは、あなたが亡くなったあとも私、たぶん思い出すと思うわぁ」

―　そうか、オレは先に死ぬことになっているのか…。

と天を仰いだ8月。 

バージンロードで娘に腕を組まれ、目と目が合った瞬間、娘が幼かったあの日あのときのことが急に頭に浮かんできて涙があふれそうになり、慌てて視線を外して空を見上げた9月。

自らの命を絶つことでしかいじめやパワハラを終わらせることができなかった若い人たちの無念を思い、天を仰ぎブログに思いをぶつけた10月。

このところすっかり口数の少なくなった中3の息子が、今夜はオリオン座がきれいだよと声を掛けてくれ、2人で夜空を見上げた11月。

人は、落胆しては天を仰ぎ、そして、何かを求めてはまた、空を見上げる。

今年もたどり着いた12月。

ひとり空を見上げながら、絶対に先に死んでなるものかと、ひっそりと心に誓った53歳の誕生日。