運がいいこと。
2017/9/26 | ||
うちの会社の女子社員は、お菓子のグミが好きで、お気に入りを買ってきては冷蔵庫で冷やし、仕事の合間に口に入れ、そのたびに幸せそうな顔をする。
それがこの前、口に入れようとした瞬間、手からこぼれ床に落下してしまった。
床に落ちて転がったグミはすぐに埃にまみれる。3秒ルールの適用を待たず、女子社員の惜別の言葉に送られ、ゴミ箱行きとなった。
ついさっきまであれほど大切にしていたのに、一瞬のうちに汚れ、ゴミになるむごさ。
たまに、コピー用紙が複合機に詰まる。
詰まってしまった紙は、黒いトナーがすれて汚れ、くしゃくしゃになり、無理に引っ張ると破れてしまうこともある。こうなると、元のきれいな紙には二度と戻らない。
さっきまでのピンと張った一点の汚れも無いまっ白だった頃の面影はない。
あっという間に紙屑になるむごさ。
人間の心によく似ている。
でも、床に転がったグミや破れた紙と違い、人間の心は回復力を持っている。
「時間の経過」という大きな味方もいる。
だから、生きる意味とか理由なんて考えだしたら訳が分からなくなるだけだから、やめた方がイイ。その答えは未来にあるから、生きて取りに行けと私は考える。
それでも、毎日のように床に落とされ、くしゃくしゃにされ、ビリビリにされたら心はどうなる。
執拗ないじめやパワハラ、セクハラはこれと同じだ。
回復力も時間を考える余裕もなくなり、答えを取りに行きたい未来も見えなくなるに決まっている。
いじめやパワハラがなくたって、毎日の暮らしは、我慢やストレス、疲労に満ちている。
毎日、朝を迎えられる喜びと、繰り返し訪れる今日という一日に対する恐怖は、紙一重だ。
* * * * *
今、私の机の上には、3件の自殺関連事案がある。
将来を嘱望された30代は、認知症の母を残した。母は子の死を知らぬまま、今も施設で暮らしている。
働き盛りの40代は、妻と未成年の子ども二人を残した。
経験豊富な60代は、年老いた認知症の母を残した。母は子の死を知らぬまま、今年、この世を去った。
心が破れない生き方はないものか―。
「何が運がいいって、こうして生きていることです。生きててごらん、面白いから。生きているだけで面白い」
永六輔さんが残したこの言葉にヒントがあるのかもしれない。
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林 正寛 | ||