その日。
2016/11/15 | ||
平日はできないが、土曜日はなるだけ早く仕事を終えて家族で食事をするようにしている。
ところが先日の土曜日、夕方に帰宅すると家の中が真っ暗で誰もいない。
いつか「その日」がやってくるのではないかと心構えはしていたが、こんなに早くやってくるとは思わなかった。
好き勝手をやってきたこれまでを反省しつつ、しばし考えて思い出した。この土曜日は、長男は夕方から友人宅へ行き、家人はママ友との飲み会に行くことになっていたことを―。
ならばゆっくり酒でも飲むかと、家の近所にある気に入りの小料理屋へ参上したものの満席で締め出された。
私は普段、夜は「酒」と決めているので、定食とかカレーとかを食べて終わりという具合にいかない。それに、私は自分ではなにひとつ料理ができない。ご飯を炊くこともみそ汁を作ることもできない。
仕方なく、近所の百貨店の地下であれこれ酒の肴を買い揃え、家でひとり飲むことにした。
私はテレビをあまり見ないし、録画番組の再生もできないので、シーンと静かな部屋で、肴と酒を交互に黙々と口に運ぶ。
以前はこのまま何時間でも過ごせたが、最近はついスマホを手に取ってしまう。
日本でスマホ市場が拡大するきっかけとなったiPhone 3Gが発売されたのは2008年である。まだ8年前にすぎないのに、このわずか8年の間に、手に入れた利便性と引き換えに、たくさんのものを失ったような気がしてならない。
発明家で米グーグル在籍のレイ・カーツワイル氏は、2045年に人工知能(AI)が人の知性を超えると予測しているが、日経新聞社のオンラインフォーラムの参加者アンケートでは、約7割の人が2045年より前に「その日」はくると予測している。
パスカルは、人間は考えることによって宇宙を超える(「人間は考える葦である」)と、物体に対する精神の偉大さ説いた。
確かに人間は、考えることにより生物史上最大の物と英知を手に入れてきたが、今、その人間が編み出したAIが人間の思考を超えようとしている。
しかし、パスカルは続けて、物体や精神から人は真の愛の一動作をも引き出せない、つまり「小さな愛の方が偉大である」と説いている。
パスカルは、愛を超自然的な秩序と表現し、物体や精神から距離を置いている。
どんなに便利な世の中になろうとも、人知(愛ないし秩序)を超えるものを創造してはならないということだ。
いや、ついに人類はそこを超えることはできないと信じたい。
我が家の「その日」もやってきませんように…。
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林 正寛 | ||