二種類ある。

二種類ある。

  2014/12/4  
     
 

学生の頃、古びた4畳半一間のアパートに住んでいた。

風呂なし、トイレは共同。

 

家族や友人からの連絡手段は、隣に住む大家さんちの黒電話で、かかってくれば窓越しに「ハヤシくん、電話やでー」と大家さんから声が掛かる。

 

「はーい!」

大きな声で返事をして、2階の部屋から電話口までドタドタ走る。

早くたどり着かなくては、相手の電話代が高くつくから全力疾走しなければならない。

 

そんなアパートなので、薄い壁一枚隔てた隣の部屋の声はよく聞こえる。

 

 

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あるとき、私の部屋で友人を集めて酒を飲んでいるときに、隣から壁をドンドンと叩く音が聞こえた。最初は気に留めなかったが、何度もドンドンと叩く音がするし、それだけで建物が響くほどこのアパートはボロい。

しばらくして、これは「やかましい」のサインだということがわかった。

 

姿が見えない隣人から壁をドンドンされると、ドキッとする。相手の怒りの加減がわからないので、結構、おそろしい。

 

また、あるとき。隣が人を集めて酒を飲みながらドンチャン騒ぎをはじめたことがあった。

日頃からやかましくして隣に迷惑をかけていたのは私の方なので、これは仕方がない、我慢しなければと思っていたが、夜中になっても騒ぎが続くので、いい加減腹が立ち、壁をドンドンと叩いた。

 

隣人は、自分の経験上、サインだとすぐにわかったのだろう。騒ぎは収まった。

 

このあとも何度か、壁をドンドン叩かれ、また、私も叩いた。

 

隣人とはつき合いがなく、どんな人だったのか、今思い出そうとしても思い出せない。

お互い顔を見合わせて口論にならなかったのが今思えば不思議なくらいである。

ただ、ただ、やかましいときに壁をドンドンと叩き合う、それだけだった。

 

 

今年の流行語大賞に「壁ドン」がノミネートされたことを聞き、自分にも「壁ドン」の経験があったことを思い出したので、今、ここに披露した。

 

おそろしくて胸がドキドキする「壁ドン」

うれしくて胸がキュンキュンときめく「壁ドン」

 

 

 

世の中には二種類の「壁ドン」がある。

 

 

 
  林 正寛  
     
     

株式会社アスキット・プラス

 

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