まさか私に先に逝けと…。
2014/11/20 | ||
お位牌の撥遺(お性根抜き)に、大阪市天王寺区にある「一心寺」に行ってきた(あくまでもお仕事です)。 二柱、三霊。
被相続人が亡くなり、相続人が不在のため、相続財産管理人が裁判所から選任された。 相続財産管理人からの依頼により、被相続人名義の不動産や宝飾品を換価し、最後に残ったのがお位牌。
もうお祀りする人が誰もいなくなってしまったので、撥遺というわけだ。
見知らぬ方の撥遺は、なんとも複雑な気分ではあるが、それは「お位牌さん」も同じで、「君は一体だれなんだ。わしらをどこへ連れて行く」といったところだろう。
「一心寺」は、永代供養や“おせがき”の寺として人気がある。
予約ができないので、納骨、永代供養や開眼、お焚き上げなどの手続きはすべて、受付に並ばされ順番が来るのを待つ。
― 都会では、あの世へ行くのにも受付があって並ばねばならないのか…。
カウンターには、袈裟を着た和尚さんが数人座り、対応されている。
並んでいる人は、遺骨を手にしたがほとんどで、オバチャン数人が遺骨片手に大声で談笑している。そんな姿をぼんやり見ていると、「ここはどこだ。この列はどこへつながっているんだ」とうなされそうになる。
受付はまるで映画のチケットに売り場のような感じで「各種手続き」が事務的に進められ、和尚さんが、「はい、次の人どうぞ!」と手を挙げて先頭に並ぶ人を招き、終わると「奥の会計へ」といった具合に流れ作業が続く。
しばらく並んでいると私の前にいたオバチャンが私を見て、どういうわけだか、
「お兄ちゃん、あんた先いきぃや」
「えっ、どうしてですか。いいですよ、そんな…」
「かまへんかまへん、先いったらええ。あたしゃ、なんぼでも時間はあるよってに」
― かまへんって、オバチャン…、ここは寺やで。あんた、まさか私に「先に逝け」と…。
なんぼでも時間があるようで無いのが人生だけど、まぁ、そう慌てなくても。
1時間並んでようやく順番が来た。
「お性根抜きをお願いします」
「一霊につき、2,000円、3,000円、5,000円、1万円とありますが、どれになさいますか」
― どれって、コースがあるのか。三霊なので2,000円だと6,000円か…。
和尚さんがお位牌をひっくり返して見て、
「ご家族のようなので、三霊で○○家として5,000円というのもあります」
― こんなところでも割引セット料金があるのか…。
「じゃ、5,000円で」
この後、お位牌を持って本堂へ行くように言われたが、時間が無いと断ると、「ならばこちらで代わりに」とお位牌を引き取ってくれた。
会計へ行き、5,000円を支払い領収書をお願いしたら、きちんと「撥遺料として」と但書きされたものを発行してくれた。
開眼(お性根入れ)や永代供養にもコースがあって、それぞれ値段が違うが、もしかすると、どのコースを選ぶかによって、あの世での待遇に差が出たりして。
この世は世知辛いが、この様子では、どうやらあの世も世知辛そうだ。
― 当分、逝きたくないナ・・・。
あの世への受付は、いくら並んでも構わない。
順番がしばらく来ないことを願おう。
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林 正寛 | ||