銀行のリスクが少なすぎる件。
2014/11/26 | ||
自宅の売却代金で住宅ローンを完済できる案件は少ない。
必然的に、売出価格を決める際には慎重にならざるを得ないが、お客さんは一様に査定価格の低さに驚かれる。
土地は、バブル崩壊後、値下がり一方だし、建物は、日本の場合、耐久消費財と同等にしか見ないので、建物の残存価値は年数を重ねるごとに大きく目減りする。住宅ローンの返済が終わるころには、建物の価値は二束三文にまで落ちる。
一方、元利均等払いの住宅ローンは、当初の10~15年は、元金はあまり減らない。
減らない住宅ローンと大きく目減りする資産価値。この差額に苦しむことになるが、特に、新築でマイホームを購入した場合、販売価格には事業主の利益がたっぷり上乗せされているため、この差額がさらに大きくなるわけだ。
だから、マイホームの売却を決断したとしても、債務の圧縮になっても負担は消えない。
売却だけではない。このところ猛威を振るう自然災害によって家を失ったとしても、同じことである。 最近は、疾病保障付住宅ローンも増えてきたが、適用条件は細かくて厳しいので、働けなくなって収入が減り延滞が発生すれば、結局、売却するしかない。そして、債務が残る。
日本の場合、債務から免れるためには、破産するか、命を差し出して団体信用生命保険の適用を受けるしかない。
つまり、住宅ローンを抱える人は、資金繰り破たんを来さないよう、自然災害に遭わないよう、病気にならないよう、細心の注意を払って生きていかなくてならない。
担保として差入している不動産を売って返済すれば、たとえ債務が残ったとしても追及されることのない米国主流の「ノンリコースローン」が日本に根付かない理由はいくつかある。
日本の場合、ノンリコースローンの主戦場となる中古住宅の市場が脆弱で、住宅市場の約8割を新築が占めている。これは、建物の価値が耐久消費財並みにしか扱われない構造上の問題が大きい。 また、「売ればチャラ」と考えれば、モラルハザードも気になる。
しかし、今後、年功序列賃金や終身雇用制度の見直しが進めば、ますます、長期住宅ローンの将来リスクは高くなる。そんな住宅ローンを組んでまでマイホームを購入しようとする若手・中堅層はかなり少なくなるだろう。 そうなれば、住宅産業は冷え込む。住宅産業が冷え込めば国の経済にどれだけの影響を及ぼすかは周知である。
日本の住宅ローンは、債務者側の人的担保の負担が過酷なほどに重たいが、その一方で、銀行のリスクは過小であり、今どき、こんな偏頗的な契約(取引)も珍しい。
銀行は一体いつまでこんな住宅ローン商品を扱い続けるのだろうか。
日本の住宅ローンは、社会構造においても契約形態の上でもあきらかに毀損し始めている。 たやすくはないが、問題を克服し、「日本版ノンリコースローン」の普及に舵を切る時期はもうきている。
中古住宅の価値を高め、市場を活性化させれば、今、問題の空き家対策にもなるのではないか。
5大銀行グループの2014年度4月~9月の実質業務純益は、1兆6,000億円である。
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林 正寛 | ||