慣れ。
2015/02/04 | ||
7~8年前のことだったと思うが、長男が夏祭りで金魚すくいをして、何匹かの金魚を家に持って帰ってきたことがある。
当初は外で育てていたが、1匹、2匹とお亡くなりになる。 これでは全滅すると思い、残った2匹を家の中の水槽に移住させた。
水槽では、ネオンテトラなどの小型の熱帯魚を20匹ばかり飼育していたが、金魚はこれらの熱帯魚と同じ程度の大きさしかなかったので、まあ、差し支えないだろうと思い、シェアさせ、エサも小型熱帯魚用のものを与えてきた。
金魚はどんどん大きくなるが、小さなころから一緒にいるので、小型熱帯魚を襲うこともない。観賞用としての見た目は悪いが、シェアは成立していた。
ただ、小型熱帯魚は寿命が短いので、少しずつ数が少なくなる。 これまでは、数が少なくなると補充してきたが、金魚が大きくなるので、なんとなく補充をためらっているうちに数年が過ぎ、熱帯魚はついに1匹だけとなり、金魚2匹は体長10cmほどの大きさに成長した。
この状態になれば、エサは熱帯魚用ではなく金魚用でいいのではないかと思い、ちょうど熱帯魚用のエサが切れたときだったので、同じくフレークタイプながら、金魚用に替えた。 熱帯魚用と比べようもないくらい、金魚用のエサの値段は安い。
「悪いけど、今日からこのエサだから。まあ、あまり変わらんと思うけどナ、はいよ」
「うわ、なにこれ。これ金魚のエサやん、これムリやで」
「君たちは金魚でしょ。文句言わずに食べるんだ」
「私ら熱帯魚やし。チョーむかつく。こんなん絶対に食べられへん」
おもしろいことに、本当にマズそうな顔をして、少し口に入れては吐き出している。 以前は数分で食べつくしていたのに、金魚用のエサは、暫くの間、水槽の中を漂っていて、かなり長い時間を掛けてマズそうに食べていた。
熱帯魚と一緒に熱帯魚用のエサで育てられた金魚たちは、たぶん、自分たちは熱帯魚であり、金魚とは思っていないのだろう。 育った環境というか、慣れとはオソロシイモノダ。
「えっ、なに、今日もこのエサなん?うーわ、サイアク」
「仕方がないだろう、我慢してくれ」
以後、これを毎日、繰り返していたが、今では、すっかり慣れて、数分で食べつくすようになった。1匹だけ残っている熱帯魚も、最初はほとんど食べなかったが、今は金魚用のエサをよく食べるようになった。
あれだけ言いにくかった「きゃりーぱみゅぱみゅ」も、以前ほど噛まなくなった。
慣れとはオソロシイ。
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林 正寛 | ||