おいおい、ジョーダンだろ。
2015/02/19 | ||
馴染みの鮨屋にお客さんを連れて行ったところ、 「いや~ハヤシさん、ごめんなさい。今夜は満席なんで…」
見ると、カウンターには2人しか座っていないし、第一、まだ日が暮れてから間もない。 「満席って、どういうこと?」
「ハヤシさん、実は、今夜は貸切なんですよ。滅多にないことですけどね」
「おいおい、ジョーダンだろ」
滅多にあってたまるか。 鮨屋を貸し切る奴もどうかしているが、それを許す店もどうかしている。
家族ぐるみで古くからやっているこの店には常連が多い。中には毎日のように来て、ちょっとつまんでは一杯やって帰る人もいる。 貸切にするにしても、せめて何席かを常連のために残しておくのが商売というものだろう。
お客さんとウロウロするわけにはいかないので、その場から別の店に電話を入れた。
「今から2名で行きますので、用意しておいてくれませんか」
すると、「ハヤシさん、今夜は予約で一杯なんですよ」と断られた。
次の店に電話を入れると、「9時以降であれば空いています」といわれた。
― おいおい、ジョーダンだろ。
今から行きたいと電話してきたお客に、その返事はないと思うけど。 結局、3件目に電話を掛けた店でようやく落ち着くことができた。
このごろは、星があるかないかで店を判断するような風潮があり、星のついた店はいつも予約で満席である。中には1ヶ月先まで満席だなんて店もある。星がなくても、次の星候補の店を発掘するとかで、隠れ家的なカウンターだけの店なども流行っている。
会社の帰りにふらりと寄っていた店に大量のお客がなだれ込むようになり、予約をしなければ入れなくなった。まったくメイワクな話である。
ある鮨屋の鮨職人が独立して店を持ったとかで、この前様子を見に行った。
その鮨職人が握る鮨は、豪快で男らしく、飾らない鮨らしい鮨で、そこがなんとも魅力的だったが、新しい店のそれは創作鮨とでもいえばいいのか、ずいぶんと着飾ったこじんまりとした鮨に変身していた。
「なんだこれは。まさか星を狙ってるんじゃないだろうな」
「わかります!?やっぱ、星、欲しいっすよ。がんばります」
戦後70年経っても、日本人は相変わらず外国人に弱いと言うか、外国のものを良しとする風潮は根強いものがあるが、それにしても、折角磨いた鮨職人の腕を外資が提供する星に捧げるとは…。
おいおい、ジョーダンだろ。
|
||
林 正寛 | ||