ニッポンの夏。

ニッポンの夏。

  2013/08/02  
     
 

「どうしてこの辺りではラジオ体操をしないんだ。音も聞こえないが」

家人に聞くと、

「なんでも近所からやかましいと苦情があったので中止したみたいですよ」

 

― 夏休みの風物詩ともいえるラジオ体操が今では騒音か…。なんとも世知辛い。

 

そもそもラジオ体操は、日の出が早い夏の日の朝、まだ夜半からの涼しさが残るなか、朝日をカラダいっぱいに浴びながら運動をして健康的な一日を過ごそうという趣旨である(たぶん・・・)。

 

ラジオ体操を終えて家に戻ると決まって、

「カラダを動かして目が覚めましたか。涼しい朝のうちに勉強をしてしまいなさい」

このように母から言われたものだ。

 

ただ、今は様子が異なる。

まずもって熱帯夜である。夜半からの蒸し暑さを引きずったまま、どんよりと朝を迎える。

こんな状態で朝日をカラダ全体に浴びながら運動をすれば、熱中症の危険性が高まる。

そして子供たちは、クーラーの効いた塾の自習室で勉強をする。

 

夏の昼下がり。

そうめんを腹いっぱい食べ終えると、午前中にプールで遊んだカラダの火照りがよみがえる。

いつの間にか居眠りをしていた。縁側には簾が降ろされている。

簾の隙間から見上げると、空いっぱいに積乱雲が広がり、やがて暗くなり、大粒の雨が落ちてくる。夕立だ。

大人たちが雨宿りの場所を求めて慌ただしく駆け回る。

待ってましたとばかり蛙の合唱が始まる。

夕立が程なくしてあがると、主役はひぐらしに交代する。風鈴との美しいハーモニー。

風が少しだけひんやりとしてきた。

蚊取り線香に火を点ける。夏休みのお手伝いの一つである。

母がスイカを切ってくれた。縁側で姉と種の飛ばしっこをした―。

40年ほど前、私が過ごした夏のありきたりの光景である。

 

猛暑、豪雨、洪水、竜巻で死者が毎年出る昨今では想像もつかない。

夏はすっかり姿を変えてしまった。

ニッポンの夏の風情はもう戻らぬか・・・。

 

 
  林 正寛  
     
     

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