世にも奇妙な物語。
2013/07/29 | ||
中学から高校の頃だろうか、しょっちゅう「金縛り」になっていたのは。 そういえば最近は「金縛り」という言葉を聞かなくなったように思うが、この症状が絶滅したわけでもあるまい。
カラダは眠っていて脳は起きてる状態のときに起こるということを聞いたことがあるが、よくわからない。 では、そういう状態だとして、なぜ、あのオソロシイ音と共に得体の知れない何かが迫ってきて、また、時には明確に「人間らしき」ものの姿を視界にとらえながら、カラダが動かなってしまうのだろうか。
「霊的」なものとは関係ないらしいが、症状はこれ以上ないくらい「霊的」であり、かなりコワイ。 深くて暗くてオソロシイどこかへ引きずり込まれそうになり、必死に抵抗するがどうにもならない。
私は特に「幽霊」が見えるというほどの能力はないが、以前は少しだけ霊感のようなものがあった気がする。気のせいかも知れないし、ただの怖がりなのかもしれない。
中学3年生の冬のことである。 その年の夏休みに岡山に転校してきた私は、高校受験のための勉強がかなり遅れていたので、このころは猛烈に勉強していた。 人生で最も勉強した時期である。
原動力は、男女共学の高校に入りたいというただそれだけのことであるが、こういうことになると、がむしゃらになれるのは、昔も今も変わらない。
ただ、多感な年ごろでもある。勉強以外に気になることはたくさんあるし、四畳半ソングが頭から離れなかったりもする。おそらくカラダも脳もかなり疲れていたのだと思う。「金縛り」も頻繁だった。
ある夜、机の前のカーテンを開けて、ガラスに映る自分の顔をボーっと眺めていた。冬なので、結露でガラスはずいぶん濡れていた。
ふと我に返り、ガラスから視線を外し机の上の参考書に向かったが、ガラスに映った自分の顔はピクリとも動かないまま、こちらを見ている。 自分はすでにカラダを動かしているのに、ガラスには依然としてボーっと眺めているさっきまでの自分が写っている。
― なんだこれは、キモチワルイな。
と思った瞬間、自分の背後からもう一人の自分が抜け出して、目の前に現れた。 自分の顔は間違えない。あきらかに自分が自分の目の前にいる。
驚いて椅子ごと後ろにひっくり返り、それですべては消えたが、全身汗びっしょり。おかげでずいぶん寿命が縮まった。 多感な少年の頃の不思議な体験である。
それにしても、抜け出した自分はどこへ行ったのだろう。自分のカラダに戻ってくれていればいいんだけど、どこかへ行ってたらやっかいだな。 抜け出した自分が「林正寛」として、平然と住み暮らしてたりして。
そうだとしたら、今、こうやってパソコンを叩いている私は一体誰なんだ…。
|
||
林 正寛 | ||