月が綺麗ですね。

月が綺麗ですね。

  2013/06/03  
     
 

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これからの暑い季節はビールが美味い。

「まずはビール!」で飲み干す味は格別で、生きていることを実感できる。

 

とはいえ、若いころは、酒のありがたみがわからず、世の中の仕組みや大人の振る舞いが気に入らなくて、その鬱憤を酒にぶつけていた。

よく言えば、尾崎豊の心情というか、悪く言えば、ただの手が付けられない江頭2:50ってところか。

毎晩のように酔って帰宅するから、家人には随分と迷惑をかけた。

 

東京の新宿で勤務していたころは、家は埼玉の旧与野市(今はさいたま市)だったので、タクシーで帰るとなると、金銭的な負担が大きい(あのころのタクシーは遠距離割引はなかったしね)。

 

だから、どうにか電車で帰ろうとフラフラしながらも埼京線の最終に飛び乗るのだけれど、家にはたどり着けない。目が覚めると大概、川越駅だった。

 

川越駅の駅員さんには、ずいぶんお世話になった。 

 

それでもこの人生、酒には、随分と助けられもした。

突然、やってくる幾多の試練のときに酒はいつも味方になってくれた。あの試練を一人で立ち向かうのはよほどのことであり、酒がどれだけ心をやすらげてくれたことか。

 

 

「電気ブラン」という酒がある。関西ではあまり馴染みはないが、東京の飲食店には必ず置いてある。

 

電気が珍しかった明治時代に誕生した、ブランデーベースのリキュールで、夏目漱石や太宰治などの明治から大正期の文豪が愛した酒である。

 

名称の由来は、当時、新鮮でモダンな言葉であった「電気」をブランデーと組み合わせたもので、電気のように口の中がビリビリと痺れるためという説もある。

風情があって、実にイイ酒である。

 

東京神田のガード下あたりで一人、網焼き肉の煙に巻かれながら、カリカリに冷えた「電気ブラン」をクイッと飲めば、あっという間に夢見心地となり、鹿鳴館時代に思いを馳せる。

 

気が付けば、そこには若い女性がひとり。

あまりの美しさに、「我君ヲ愛ス」

 

思わず口にすると、あわてて夏目漱石が現れ、「君、そこは、『月が綺麗ですね』とでもしておきなさい」と耳元でささやかれる。

 

― なるほど、そういうことか…。

 

この風情がいい。

 

(意味が分からない人は『月が綺麗ですね』で検索してください)

 

  

 
  林 正寛  
     
     

株式会社アスキット・プラス

 

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