君のためなら死ねる。
2013/06/18 | ||
明治時代の小説家二葉亭四迷は、「I love you」を「私は死んでもいい」と訳したとか。真偽のほどは別にして、実に情熱的である。
一方、夏目漱石は、生徒が「I love you」を「我君ヲ愛ス」と訳したときに、そこは「月が綺麗ですね」とでもしておきなさいといったという。情緒的ではあるが、かえって内に秘めたる思いが伝わってくるようでもある。
表現はまったく異なるが、二人の秀才が言葉にした日本人らしい恋愛に対する感情は、「体育会系」にはない「別もののタフさ」を感じてしまう。
「愛と誠」に登場する秀才「岩清水弘」は、「君のためなら死ねる」と早乙女愛への報われない愛を貫いた。 頭脳明晰なのにタフで情熱的。草食系でも肉食系でもない、こんな強靭なニッポン人はすっかり少なくなったように思う。
6月15日の日経新聞に、各大学の入学式で学長は、「グローバル社会をたくましく生き抜き、世界で活躍できる人材になれ、タフであれ」と学生に呼びかける一方で、大学は、学生を集めるために、学生本人や親たちの求めに応じ、大学生活や試験勉強、就活など、手取り足取りの手厚い指導に歯止めがかからないといったことが書かれてあった。
大学側の苦悩が読み取れるが、人材を受け入れる企業側でも最近の大卒者に、「人格的な成熟度の不足」を感じ、主体性に欠け、打たれ弱い若者が多いと感じているらしい。
ライバルが10本のバラを贈ったら、君は15本贈るかい? そう思った時点で君の負けだよ。 ライバルがなにをしようが関係ない。 相手が望むことを見極めることが肝心なんだ。
この言葉は、スティーブ・ジョブズ氏特有のマーケット理論の一つであるが、与えらえた課題をこなすだけの塾の勉強方法が染みつき、自分の頭で考えられない今の若者たちに、「相手を見極める」力があるだろうか。
相手を見極めるためには、精神的なタフさが求められる。 この場合必要とされるのは、夏目漱石の情緒よりも、二葉亭四迷の情熱かもしれない。
「君のためなら死ねる」 この言葉を好きな女性に真に言い切れる精神的強靭さ、つまり、自分に強い主体性があれば、相手(その女性または、ライバルないし市場)を見極めることができるんじゃないか。
ただし、そこは学校や塾では教えてくれないけどね。
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林 正寛 | ||