勝者の呪い。

勝者の呪い。

  2013/06/21  
     
 

入札の方法による不動産の売却手続きに参加していたが、昨日行われた開札の結果は「負け」だった。

入札は、すべてにおいて勝つことは難しいが、今回の案件では、二つの不動産の入札に参加して、いずれも良い結果が得られなかった。

 

不動産に限った話ではないが、売却手続きに入札の手法を使えば価格の妥当性や手続きの透明性を担保しやすい。公益性を担保する必要がある公共工事なども同様である。

 

ただ、参加者は、どんなに時間と費用を掛けて調査しても、負ければそれで終わりである。後にはなにも残らないので、その点で入札は、負けた時のリスクと精神的ダメージは大きくなる。

 

その一方で、1番高い価格で落札した人、つまり勝者もリスクを負う。

勝った瞬間こそ「ヨッシャー!」となるものの、時間の経過と共に喜びは薄れ、「もしかして、自分は市場の値段を上回る高値で落札してしまったのでは」 と、不安や後悔の念が強くなる。

 

これを「勝者の呪い」という。

 

不安を少しでも払拭しようと、「2番手、3番手の価格は?」と訊いてみる。

「いやぁ~、あなたぶっちぎりの1番ですよ」

なんて答えが返ってきたら、まぁ、一週間は寝込むだろう。

 

たとえば、ネットオークション。

自分の入札金額が1番のまま、そろそろ制限時間も迫ってきた。「これは落札できるな」と思っていたところ、終了間際に自分より高値をつけた入札者が現れたら、あなたならどうする?

ほとんどの場合、さらに高い金額で応札してしまうという。

 

これを二つの仮説で説明すると、

一つは、「あるモノを手に入れるために払っても良いと思う金額」よりも、「せっかく手に入れたモノを失わないために払っても良いと思う金額」の方が上回るという、「損失回避の概念」という仮説である。

 

もう一つは、人は、自分に親切にしてくれる相手には親切にしたいし、自分を傷つける相手は傷つけたいという「公平性の概念」という仮説である。

終了間際に自分よりも高値をつけた入札者は、自分を傷つけたと認識し、その相手をやっつけたい、負けさせたいという思いがわき、さらに高い金額で入札してしまう。

 

ネットオークションでは、終了間際に入札があった場合、自動的に時間が延長される方法を採用しているケースがあるが、これは、経済心理学における人の行動パターンを計算した上で、より高値を導くための手法である。

 

負ければ落ち込み、勝てば「勝者の呪い」に襲われる。

 

入札は、自分との戦いでもある。

 

  

 
  林 正寛  
     
     

株式会社アスキット・プラス

 

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