スジ。

スジ。

  2014/05/12  
     
 

サラリーマン時代に、ある団体の担当者と交渉を進めていたときのこと。

 

そもそも、話がストレートに通じる相手ではなかったが、担当者の態度があまりにものらりくらりと煮え切らないため、ちょっと危険かなぁと思いながらも、担当者をすっ飛ばしてトップに会いに行き、話をまとめたことがある。

 

案の定、それを知った担当者が怒ってねじ込んできた。

 

「ワレ、筋を通さんかい、ボケ!」

 

「交渉が進展しないからね」

 

「わしの立場はどないしてくれんねん」

 

「あなたの立場で仕事してるわけじゃないから」

 

「なんやとー!」

 

「まあまあ、そう怒らんと。上手くいったんだからいいじゃない」

 

「お前はよくてもわしのメンツは丸潰れやないか!」

 

なだめるのに苦労した。

 

 

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日本社会においては、社会常識や社会通念、道理、または、礼節、ルール、おかれた立場や責任、メンツなどから「筋を通す」ことを重んじる風潮がある。

 

義を貫く姿勢は日本人らしいが、しかし反面、使い方や場面を間違えると、どこか一方的で頑なであり、柔軟さが無く、ちょっとヤクザっぽいというか、上から目線というようなイメージもある。

 

 

2007年、認知症の91才の男性が電車にはねられて死亡した。同居の妻がうたた寝をした数分の間に一人で家を出てしまった。

 

JR東海は損害賠償を求め、控訴審判決は妻に介護・監督義務を怠ったとして約360万円の支払いを命じた。

 

賠償額は地裁判決より半減されたが、現在、91才で要介護認定1の妻に支払い能力はない。

 

事故後の振り替え輸送費用などの損害を遺族に求めるのは、鉄道会社側としては「筋」であるし、示談交渉がまとまらなかったので訴え提起したという判断もまた、「筋」である。

 

判決も法律の「筋」に沿ったものである。

 

しかしだ。筋は通したが解決には結びつかない。

 

むしろ虚しさだけが漂う。JR東海側にしても同じ思いであろう。

 

 

紛争の元には双方の筋論があり、どちらも筋を曲げないから衝突する。

 

人、企業、社会、国、あらゆるところに横たわる「筋」。

 

正しいことなのに上手くいかない。

 

 

「筋を通す」とは、案外、MUZUKASHII…。

 

 
  林 正寛  
     
     

株式会社アスキット・プラス

 

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