CHAGE and ASKA。
2014/05/19 | ||
「あの~、ハヤシさん…、ですよね」
着古したダンガリーシャツとジーンズの上に、市場の人がするような大きな前掛けを付けた化粧気のない中年の女性に声を掛けられた。
「私、すぐそこの船場センター街の居酒屋で…」
思い出した。
第二次サラリーマン時代によく行った居酒屋の看板娘だった女性だ。
あの頃、私は仕事で強烈な重圧の中にあった。しかも、私が担当する班は15人ほどの部下がいて、その半分は年長者だったこともあり、班をまとめるためによくみんなを連れて飲みに行っていた。
代金はできるだけ私が支払っていたが、さすがに15人分となると負担になるので、クオリティは諦めて、安くてたくさん食べて飲めるこの居酒屋にしょっちゅう、行っていた。
大将とその息子と女性の3名だけで店を切り盛りし、15人も入ればそれで満席になるようなこじんまりした店だった。
この女性は店の看板娘で、特別に美しいとか可愛いとかではないが、いつもニコニコの笑顔で気立てが良く、客からはたいそうな人気だった。
他に誰も客がいなくなれば、大将と息子、女性も席に加わってみんなで飲んだ。
「ハヤシさん、まったく変わってないからすぐにわかりました」
「10年以上は経つな。あなたも変わらないね。今、どうしてるの」
あれから店の息子と結婚し子供を二人もうけたこと、今も3人で店を続けていること、大将は耳が遠くなり、お客さんがビックリするような大きな声を出さないとオーダーがとおらないことなどを笑いながら話をしてくれた。
「お客さんがずいぶん減りました。あの頃、ハヤシさんがたくさん会社の人を連れてきてくれて、いつも大騒ぎで、とても楽しかった…」
あなたも変わらないねと言ったものの、子育てしながら夜遅くまで店を手伝っていれば、蓄積された疲れもあるのだろう。もはや看板娘の面影はなかった。
― 色々と事情はあるのだろうが、それでも懸命に生きているんだ…。
『とても繊細な心の持ち主だった』 『曲作りの重圧が相当あったのだろう』
それがどうした。
そんなこと言っていたら、大人は全員が薬漬けになってしまう。
ほとんどの大人は、言い訳を飲み込み、歯を喰いしばって、懸命に仕事をしながら生きている。
会社が倒産したって、諦めずにまた立ち上る。
大きな哀しみを抱えていたとしても決して顔に出すこともない。
― 人はそれぞれ事情をかかえ、それでも平然と生きている。(伊集院静)
どこでつまずいたのかは知らないが、さっさと罪を認め、罪を償い、また素晴らしい歌を聞かせて欲しい。
「CHAGE and ASKA」は、「CHAGE and ASKA」にしかできない仕事だから。
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林 正寛 | ||