「やあ、税理士のI先生、いらっしゃい。今日はどうしたの？」

「どうにも最近、暇なもので…。何か、ネタはありませんか」

「若いんだから、もっと営業しないと。うちに茶を飲みにきてる場合じゃないんじゃないの」

「ハヤシさんは暇なときってないですか？」

「もちろんありますよ。でも不思議なことに、たまにはゆっくり書店にでも行こうかと出かけると、その途端にスマホに電話が2件、3件と重なるように入ってきて、結局、会社に引き返すことになったりするね」

「ああ、そういうことってありますよね。でも反対に、今日は会社にいた方がよさそうだなと思って会社にいると電話も来客もなくて、ボーっと過ごすことになったりして」

「先生、実はある返事待ちの案件が最近ようやく動き出したんだけど、するとなぜだか他のペンディング案件も動き出してきてね。またそんな時に限って、何ヶ月も眠っていた案件までもが、ひょっこり先方から『あの件、よろしく』なんて連絡が入ってきたりして。分散してくれると助かるのに…」

飲み会も、一つ予定を入れると、なぜかその近辺に他の飲み会が集中してくる。

去年は、いただき物のリンゴが重なり、家の中がリンゴで溢れたことがある。

不思議と重なるときは重なるもんだ。

これって、なにかの法則があるのだろうか。

会社の食器棚の引き出しの中をゴソゴソしていたら、奥から目薬が出てきた。

ほとんど使われていない。日付からすると半年ほど前に購入しているようだけど、まったく記憶が無い。

ついこの前、薬局の女性店員さんにあれこれ聞きながら目薬を買ったばかりなのに。

しかも出てきた目薬は、この前買った目薬とまったく同じ銘柄だった。

「もしかすると、半年前にも店員さんに“君のお勧めはどれ？”とか、おバカな質問しながら選んだのだろうか」

「もしかしなくても、間違いなくそうでしょう」

「先生、間違いなくって、それ言い切れるの？」

「はい、言い切れます」

「……。じゃあ、同じ目薬が二つ重なったけど、これも何かの法則だったりして」

「違うでしょ」

「言い切れるの？」

「言い切れます」

―　なんだ、暇つぶしに来たわりには冷たいじゃないか。当たってるけど…。