大切なもの。

大切なもの。

  2014/05/30  
     
 

引越しや部屋の模様替えなどで家具を移動させると、後ろからいろんなものがホコリにまみれて出てくる。

 

小銭やボールペン、ボタン、スーパーボール…。

 

サラリーマン時代は何年かに一度、転勤があったので、そのたびに家中を整理できたのだが、今は引越しがない。

 

それならば、できるだけシンプルに暮らそうとするのだが、なかなかそうはいかない。

 

子供は特に、オトナからするとなんでこんなくだらない物をと思うような代物を大切に持ち続ける。

 

しかも、大切に保管してあればまだしも、あたかも興味なさそうに放置してあるので、親としては「不用品」と解釈して「捨てろ」と指示する。

 

すると途端に、「これは大切なものだから」と開き直る。

 

まあ、かく言う私も子供のころ、王冠や一部欠けたビー玉、セミの抜け殻、鳩の羽根など、わけの分からん「大切なもの」は山ほどあったけれど…。

 

 

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債務整理で自宅不動産を売却する仕事には、引越し作業も含まれるが、そこで度々、依頼者の方の乱雑に生きてきた過去と遭遇することになる。

 

なかには何十年も掃除一つしなかったのではと思うようなケースもあるが、なにしろ散らかり具合が尋常ではない。

 

― 大切にしてこなかったんだ…。

 

ほとんどの場合、引越し後の居住スペースは縮小せざるを得ないので、今ある家財道具すべてを持っていけず、大量の不用品、ゴミを残して「あとはハヤシさんヨロシク。はい、鍵ね」なんてこともよくある。

 

債務整理のために自宅売却を決断したまではいいが、それ以上はなかなか気持ちが前向きになれない方もおられるので、私としては、それも仕方ないことだと受け入れるが、依頼者の方の過去と向き合いながら、不用品を廃棄して掃除する作業は骨が折れる。

 

不用品の山を崩しながらビニール袋に詰めていると、何度も手が止まる。

 

― こんなものまで捨てちゃうのか…。

 

アルバム、子供の名前が書かれた表彰状、学校の通知表、子供が描いた母の似顔絵、ランドセル…。

 

乱雑に生きた過去を清算するためには、たくさんの「大切なもの」を失うという犠牲がともなう。

 

 

一日かけてようやく片付けを終え、最後に家の前の道路をほうきで履いているとカラスが一羽やってきて、屋根に止まって一声“カァー”と鳴いた。

 

― もうここには誰もいないから。あっちに行くんだ!

 

 

振り返ると、開け放った玄関のドアの向こうに、ガラーンとしたリビングが見えた。

 

 

奥から家族の笑い声が確かに聞こえた。

 

 

 
  林 正寛  
     
     

株式会社アスキット・プラス

 

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