バイバイ。
2014/07/28 | ||
「最後は川に帰してあげなさい。そのカニにも家族がいて帰りを待っているのだから」
よく母にこのように諭された。
しかし、小学生の私に聞き分けはない。
山や川で捕獲した「生き物」はなんでも家に持って帰った。
イモリ、ヤモリ、カエル、サンショウウオ、ザリガニ、サワガニ、トカゲ、カタツムリ、カブト虫、ツバメ、メダカ、カメ、カマキリ…。
ペットショップで買ってきて飼うのではなく捕獲したものばかり。
オオサンショウウオは天然記念物なので、さすがに飼えず、デカいたらいに入れて紐で縛り、長い道のりを引きずって学校まで持って行った。
ヘビは持って帰ると気持ち悪がられるので、数匹を捕獲し、川でどのヘビが泳ぐのが早いか競争させたりした。
小学生が飼うといっても限界がある。
きれいな水を常に保っていなければならなかったり、冬眠が必要だったりすると、なかなか対応できるものではない。
結局、たくさんの生き物たちを死なせてしまい、今さらながら、後悔する始末である。
昨日、きれいな渓流の横でバーベキューを楽しんだ。
ビールの飲めないバーベキューなんてあり得ないが、運転者は私しかいないのだから仕方がない。
大人しくお茶を飲みながら、お肉をモグモグ…。う~ん、ビミョーだ。
間もなく20才になる長女は出かける前に、「私、川には入らないから」などと澄ましていたが、結局、川に入って一番大騒ぎしていた。
自然に触れると人は本来の自然の姿に戻るのだろうか…。
事前に用意してきた網で長男は懸命に魚を追いかけている。
長女はその横でバケツを持って、「ギャーギャー」
ふと、岩の上を歩くサワガニを見つけた。
見過ごそうかと一瞬、迷ったが、せっかくなので「捕獲」した。
こういうのは、女子が大騒ぎするものと相場は決まっているが、案の定、長女が大喜びし、何枚も写真を撮ってはメールしたりラインしたり(上の画像はそのうちの1枚です)。
― サワガニがそんなに珍しいか…。親はどんな教育をしてきたんだ。
「さぁ、そろそろ帰ろうか」
「おとーさん、このカニはどうすんの」
「川に帰してやるんだ」
「え~っ!」
― 君、もうすぐ20才でしょ。サワガニ持って帰ってどうすんの…。
「そのカニにも家族がいるんだ。帰してやりなさい」
「はぁーい…」
長男と二人で身をかがめて川へ戻し、バイバイと手を振っていた。
「二度とオジサンなんかに捕まるんじゃないぞ」
― おいおい、そこかよ…。
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林 正寛 | ||